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再生医療における移植モデルの開発に初めて成功~iPS細胞を用いた移植医療への貢献に期待~(遺伝子病制御研究所 教授 清野研一郎)

2020年8月12日
北海道大学
日本医療研究開発機構

ポイント

●iPS細胞を利用した移植医療に適したマウス皮膚移植実験モデルの開発に成功。
●MHC型を一致させた移植であってもT細胞が反応し,拒絶反応が生じることを発見。
●再生医療において有効な免疫の制御方法を開発するために活用されることに期待。

概要

北海道大学遺伝子病制御研究所の清野研一郎教授らの研究グループは,iPS細胞を利用した移植時に起こる免疫反応を再現するマウス皮膚移植モデルを開発しました。

iPS細胞は,色々な種類の細胞に性質を変えられるという特徴から,移植医療への応用が期待されています。しかし,他人由来のiPS細胞を移植に用いるときには,通常の移植医療の際と同様に移植を受けた患者さんの免疫細胞によって拒絶反応が引き起こされる恐れがあります。このリスクを低減するために,白血球の型を合わせた拒絶反応の起こりにくい組み合わせのiPS細胞を用いた移植が計画されていますが,どのような免疫応答がどの程度生じるのかについては不明でした。

研究グループは開発した移植モデルを用い,白血球型を合わせることで移植片が拒絶されるまでの期間を延ばすことができる場合がある一方,白血球型を合わせた移植であっても,合わせなかったときと同様に早い時期に移植片が拒絶される場合があることを明らかにしました。開発した移植モデルを用いて,iPS細胞を利用した移植の際に生じうる免疫応答の解析を行った結果,移植片に免疫細胞が浸潤していることや,免疫細胞の一種であるT細胞が反応していることがわかりました。また,拒絶反応の原因の一つとなる抗体の産生について調べたところ,早い時期に移植片が拒絶される組み合わせであっても拒絶反応の原因の一つとなる抗体は作られていませんでした。現代医療でも抗体による拒絶反応の制御は非常に難しいため,移植片に対する抗体を作らせないという点において,使用するiPS細胞の白血球型を合わせることの利点は大変大きいといえます。

さらに,拒絶反応を抑え,移植片が拒絶されることを防ぐ方法の検討として免疫抑制剤の有効性を検証しました。長い期間に渡って拒絶を抑制することができる移植の組み合わせがあった一方で,免疫抑制剤を使用しても移植片が拒絶されてしまう場合があることを示しました。これらの結果は,iPS細胞を用いる再生医療においても移植後の免疫応答の制御が非常に重要であることを示しています。今後は,適切な免疫応答の制御方法を開発するために,この移植モデルを活用して研究が行われることが期待されます。

なお,本研究成果は,2020811日(火)公開のScientific Reports誌に掲載されました。

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