2020年8月7日
ポイント
●新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症例では高サイトカイン血症が認められる。
●COVID-19における高サイトカイン血症へのマクロファージの関与が示唆されている。
●抗サイトカイン療法で重症COVID-19の予後の改善が報告されており,世界的な臨床試験が開始。
概要
北海道大学遺伝子病制御研究所の大塚 亮助教,清野研一郎教授らの研究グループは,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染患者でみられる強い炎症状態について,最新の知見をまとめた総説論文を発表しました。
SARS-CoV-2ウイルスは急速に全世界的に広がり,パンデミック状態にあります。明確な治療薬やワクチン開発は未だ開発途上にあるため,私達の生命をおびやかすこの新興感染症の収束の兆しは未だにみえていません。SARS-CoV-2感染症(COVID-19)患者の一部は症状が重篤化し,命を落とす危険性があります。このような重度のCOVID-19では,血液中の炎症性サイトカインの濃度が非常に高い状態(サイトカインストーム)にあることが明らかになってきました。この特徴は自己免疫疾患などにともなって発症する,マクロファージ活性化症候群で見られる高サイトカイン血症に類似しています。
さらに,SARS-CoV-2ウイルスの感染は肺全体で強い急性炎症を引き起こし,急性呼吸窮迫症候群とよばれる症状を引き起こします。呼吸器で発生したこの症状は,重篤な場合には全身性のサイトカインストームにいたり,血管内凝固症候群や,最終的には全身臓器の機能不全を引き起こし,死にいたります。このように血液中に高濃度の炎症性サイトカインが検出される状態に対しては,抗体などを利用した抗サイトカイン療法が効果的であることが過去に報告されています。
以上の知見に基づいて,世界各地でCOVID-19における抗サイトカイン療法の臨床試験が開始されています。また既にいくつかの施設から,抗サイトカイン療法によって重篤なCOVID-19患者の予後が改善したことが報告されており,その有効性に注目が集まっています。
本総説論文は,2020年8月6日(木)公開のInflammation and Regeneration誌COVID-19特集号"COVID-19: Its Pathogenetic Mechanisms and Potential Therapeutics"の1つのトピックとしてオンライン掲載されました。なお,清野教授が特集号にてゲストエディターとして執筆した巻頭言"Steps towards COVID-19 suppression"は,Inflammation and Regenerationでオンライン公開されています。
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