2020年8月25日
北海道大学
国立極地研究所
海洋研究開発機構
ポイント
●厚い海氷に閉ざされた昭和基地沖での大規模な広域海洋観測の実現に初めて成功。
●暖かい海水の流入による白瀬氷河域の顕著な底面融解プロセスを解明。
●知見が圧倒的に乏しい東南極における氷床変動の理解向上へ貢献。
概要
北海道大学低温科学研究所の平野大輔助教,国立極地研究所の田村岳史准教授,海洋研究開発機構の草原和弥研究員らの研究グループは,現場観測と数値モデルの手法を融合し,暖かい海水の流入によって生じる白瀬氷河の顕著な融解プロセスを解明しました。
近年,西南極では氷床の融解が加速していることが観測され,地球の海水準上昇への影響が危惧されています。一方,東南極ではその実態は未だよく分かっていません。南極・昭和基地のあるリュツォ・ホルム湾の奥には,南極で最大級の流動速度を持つ白瀬氷河が存在しますが,氷河融解の鍵となる海洋の観測は,厚い海氷に阻まれてほとんど行われていませんでした。しかし,第58次南極地域観測隊(2016-17年)では,過去約60年にわたる日本の南極観測で初めて,湾口から白瀬氷河の前面海域にいたるエリアでの大規模な海洋観測に成功しました。本研究では,この海洋観測データの解析を軸に,数値モデルや測地・雪氷学分野との融合研究を行い「白瀬氷河の下(底面)に,沖合起源の暖かい海水が流入することで顕著な融解が生じていること,また,その融解強度は卓越風の季節変動によってコントロールされる」という一連のプロセスを提唱しました。これは,西南極と比べて圧倒的に知見が乏しい東南極における氷床質量変動の理解向上に貢献すると期待されます。
本研究は,平野助教が中心となり,南極地域観測の第Ⅸ期重点研究観測プロジェクト「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気−氷床−海洋の相互作用」(2016〜2021年度)のもとで,国立極地研究所,海洋研究開発機構,英国南極観測局との共同研究として実施されました。なお,本研究成果は,2020年8月24日(月)公開のNature Communications誌に掲載されました。
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