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神経膠芽腫の放射線治療抵抗性のメカニズムを発見~放射線耐性を克服する新たな分子標的放射線治療法の開発に期待~(医学研究院 講師 南ジンミン,講師 小野寺康仁)

2020年9月2日

ポイント

●細胞内小胞の分泌経路を制御するRab27bの発現が放射線刺激により亢進されることを発見。
●パラクライン効果を介した新たな放射線治療抵抗性のメカニズムを解明。
●放射線治療効果向上のための分子標的薬開発への進展に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院の小野寺康仁講師,南ジンミン講師(同大学院医理工学院分子・細胞動態計測分野担当)らの研究グループは,神経膠芽腫の放射線治療抵抗性に関与する新たな分子メカニズムを明らかにしました。

膠芽腫は悪性度が高いグレードIVの悪性腫瘍で,予後(治療後の見通し)はよくありません。膠芽腫の治療には放射線療法が用いられますが,がん細胞の放射線治療抵抗性を一因とする治療後の再発が問題となっています。そのため,治療効果のさらなる向上には膠芽腫の放射線治療抵抗性のメカニズムの理解が必要不可欠です。

研究グループは,膠芽腫細胞の放射線照射に伴う遺伝子発現変動の解析を行いました。細胞内小胞輸送を制御するRabファミリー低分子量Gタンパク質遺伝子に着目して比較解析をおこなったところ,分泌経路に関与するRab27bの発現が放射線照射によって特異的に亢進することを発見しました。また,このとき増殖因子の一つであるエピレギュリンの発現が,Rab27bと共に亢進して放射線治療抵抗性を促進することや,これらの遺伝子の発現亢進が患者の予後不良と相関していることを明らかにしました。さらに,放射線照射による膠芽腫からのエピレギュリンの分泌は,パラクライン効果によって周辺のがん細胞の増殖を促進することを見出しました。

これらの結果は,放射線照射後にがん細胞から分泌が促進される因子が放射線治療抵抗性において重要な役割を果たしていること,そのメカニズムに関与するRab27bとエピレギュリンは有効な分子標的になり得ることを示唆しています。本研究成果に基づき,放射線治療抵抗性に関与するRab27bを介した分泌経路及び分泌物をより詳細に解析することで,放射線治療効果の向上に繋がるさらなる分子標的が得られることが期待されます。

本研究は,大学院医学研究院の白土博樹教授(センター長)・清水伸一教授(副センター長)が総括する医理工学グローバルセンターにおいて,米国スタンフォード大学Quynh-Thu Le教授・Amato Giaccia教授との共同研究として実施されました。また,本研究は,北海道大学大学院医理工学院の研究教育の一環として行われました。

本研究成果は,202088日(土)公開のNeuro-Oncology Advances誌にオンライン掲載されました。

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マウス脳への膠芽腫細胞の移植実験
Rab27b発現抑制と放射線の組み合わせが膠芽腫の成長を抑制し(A),マウス生存期間を延長する(B)。