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受精卵の細胞分化に不可欠な転写共役因子YAP1の細胞内局在制御~細胞分化制御機構の解明に期待~(農学研究院 准教授 川原 学)

2020年9月30日

ポイント

●分化制御タンパク質YAP1の局在調節に細胞骨格アクチンが関与していることを証明。
●初期の個体発生における機械的刺激の動的な変化が分化関連タンパク質の局在に影響。
●細胞分化や細胞癌化など広範な生命現象に関わるYAP1の細胞内局在調節の理解に貢献。

概要

北海道大学大学院農学研究院の川原 学准教授らの研究グループは,同大学院修士課程の山村 頌太氏,合田菜な未氏らとともに,哺乳類に特有の臓器である胎盤をつくる細胞である栄養外胚葉への分化において極めて重要な転写共役因子であるYAP1の細胞内での分布制御には,細胞骨格アクチンの細胞内分布が重要な役割を果たすことを見出しました。

本研究では,細胞の運命が内部細胞塊と栄養外胚葉という2種類に既に決定している胚盤胞期のウシ受精卵を使って,この時期に観察される胚の収縮時の機械的な運動に伴う細胞骨格アクチンの分布とYAP1細胞内局在の関係について詳しく調べました。胚盤胞期まで発生する際に,YAP1は胚盤胞期胚の外周に位置する栄養膜細胞の核内に局在して,栄養膜細胞に特徴的な遺伝子発現を調節しています。これまで,YAP1の細胞内局在は細胞の位置関係を感知してシグナル伝達に変換するHippo経路により調節されていると考えられていました。しかし,胚盤胞期にまで発生した「後」の栄養膜細胞におけるYAP1の局在については,どのように調節されているのか全く調べられていませんでした。

今回の研究の結果,胚の収縮に伴う細胞表層のアクチンの突出が観察された細胞でのみ,YAP1タンパク質の核内から細胞質への移動が起こることが判明しました。またこの移動は,Hippo経路を阻害しても観察されたため,Hippo経路とは独立であることがわかりました。

以上より,ウシの胚盤胞期栄養膜細胞におけるYAP1の細胞内局在は,細胞骨格アクチンの分布状態によって核と細胞質間の移動が調節されていることが判明しました。これによって,哺乳類受精卵の分化制御において決定的な役割を果たすYAP1タンパク質の細胞内局在を制御する新たな機構の一端が明らかになりました。受精卵の細胞分化は,細胞の位置や極性などによって調節されていることが近年の研究で明らかになってきていますが,受精卵における機械的刺激が分化関連タンパク質の動態を調節する可能性を示したのは本研究が初めての知見となります。今後はさらに,どのような分子が仲介して,細胞骨格分布の変化が分化関連タンパク質の動態を制御しているのかを調べていくことで,細胞分化機構を深く理解することに繋がるものと期待されます。

なお,本研究成果は,2020915日(火)公開の Developmental Biology誌のオンライン版に先行公開されました。

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