2020年10月14日
ポイント
●金属ガラスの温度記憶現象を世界で初めて発見。
●金属ガラスに熱処理時に導入された弾性応力凍結現象のメカニズムを解明。
●均質と考えられがちなガラス構造に存在する不均質性を探る新たなツールとして期待。
概要
北海道大学大学院工学研究院の大沼正人教授らの研究グループは,応力下で熱処理した金属ガラスが熱処理を施された温度を記憶していることを世界で初めて発見しました。
強磁性金属ガラス(アモルファス合金)リボンは,磁気応答性に優れた軟磁性合金として既に応用が進んでおり,ロスの少ない変圧器や高性能モーターへの応用など,低環境負荷を実現する材料としても期待されています。バキュームシュメルツ株式会社(ドイツ)では,この材料に利用目的に合わせた磁気異方性を付与する目的で連続応力熱処理法を開発し,より付加価値の高い材料を製造しています。同社との国際共同研究グループでは,この応力熱処理による磁気異方性の構造的起源を研究し,金属ガラス中に弾性ひずみが凍結されていることをこれまで明らかにしてきました。今回,280~400℃の範囲で熱処理されたリボンの熱膨張測定を行ったところ,凍結された弾性ひずみが解放される温度が初めに行った応力熱処理の温度とほぼ一致するという温度記憶現象を発見しました。金属ガラスは非平衡状態にあるため,熱処理により不可逆的な変化を起こすのが普通ですが,結晶化温度(480℃程度)より十分に低い温度では,最初の熱処理温度を記憶していたのです。さらに,研究グループではこの記憶現象の記憶量や活性化エネルギーの温度依存性から,ガラス構造に特有の空間的不均一構造を起源とするβ緩和現象と関連づけて説明することにも成功しました。
得られた結果は,ガラス構造の重要な要素であるものの実験的な観測が難しい残留ひずみやβ緩和を検討する新たな手法としても有効であり,今後の金属ガラスの特性改善を進める上で重要な知見を提供するものと期待されます。
なお,本研究成果は,2020年9月25日(金)公開のPhysical Review Materials誌に掲載されました。
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