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海洋微生物の「老い」が雲の生成を抑える~雲の生成を制御する大気中の有機物量の指標として,海洋微生物の老化度を新たに提唱~(低温科学研究所 助教 宮﨑雄三)

2020年10月14日

ポイント

●海しぶきによって海から大気へ移行する有機物量を表す海洋微生物の指標を新たに提唱。
●海洋微生物の細胞老化とともに海水と大気の有機物量が増大し,雲の生成を抑制することを発見。
●温暖化に伴う海洋の微生物活動の変化による気候影響を予測するための新たな知見として期待。

概要

北海道大学低温科学研究所の宮﨑雄三助教,同大学院地球環境科学研究院の鈴木光次教授らの研究グループは,亜寒帯西部北太平洋での船舶による大気と海水の同時観測から,海洋植物プランクトンの細胞老化が進むほど,海しぶきによって大気へ移行する有機物の量が増えることを明らかにし,大気微粒子(エアロゾル)がもつ雲粒の生成能力を抑制する可能性を初めて示しました。

大気エアロゾルは太陽光を散乱・吸収するほか,雲の量や降水過程に影響を与えるなど,気候変動に重要な役割を果たします。エアロゾルに最大8090%含まれる有機物は雲生成の促進・抑制を決定づけると考えられています。地球の表面積の約7割を占める海洋の表面では,微生物の活動に伴う有機物が海しぶきにより大気へ放出されますが,海洋大気中の有機物量を支配する要因は明らかではありません。研究グループは海洋植物プランクトンの細胞「老化」に着目した指標を新たに用い,細胞老化が進むほど,海水中及び海しぶきとして大気へ放出される有機物の量が増えることを明らかにしました。さらにこの細胞老化に伴う大気エアロゾルの有機物量の増加は,雲の生成を「抑制」する可能性があることを見出しました。本成果は,温暖化等による海洋表層の植物プランクトンの活動度の変化が,大気への有機物の放出を通して雲の生成に影響することで起こる,将来的な気候影響を評価・予測する上で重要な知見となることが期待されます。なお,本研究成果は,20201012日(月)公開のScientific Reports誌にオンライン掲載されました。

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本研究の成果の模式図