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リソソーム輸送の阻害で癌細胞の浸潤能を抑制!~放射線治療後の浸潤性再発を阻止するための新たな治療法の開発に期待~(医学研究院 講師 南ジンミン,講師 小野寺康仁)

2020年10月28日

ポイント

●細胞内リソソームの輸送が放射線照射後に生存した癌細胞の浸潤能促進に関与することを発見。
●放射線照射後に癌細胞内でリソソームの輸送を制御するメカニズムを解明。
●放射線治療後の浸潤性再発を抑制するための分子標的薬開発への進展に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院医理工学グローバルセンターの呉 秉修研究員,小野寺康仁講師,南ジンミン講師(同大学院医理工学院分子・細胞動態計測分野担当)らの研究グループは,放射線治療を耐えて生き延びた癌細胞が,リソソームの輸送機能を用いて浸潤能を促進することと,その調節に関与する新たな分子メカニズムを明らかにしました。

放射線療法を含む様々な癌治療の技術革新に伴い,癌患者の生存率は向上してきました。その一方で,治療後に残存した癌細胞においては,浸潤能が亢進することも報告されています。癌細胞の細胞外基質への浸潤は,のちに周辺組織や遠隔臓器への転移に繋がるため,予後(治療後の見通し)不良の重要な決定因子の一つです。そのため,治療効果のさらなる向上のためには,治療に耐え性質が変化した癌細胞の分子レベルでの研究が必要不可欠となります。

研究グループは,放射線照射後に生き残った癌細胞において,細胞内小器官であるリソソームの輸送に着目して解析を行いました。放射線照射後,癌細胞内のリソソームが細胞膜側に輸送され,エキソサイトーシスにより細胞外マトリックスを分解するプロテアーゼなどを細胞外に放出することで,癌細胞の浸潤能が亢進することがわかりました。さらに,これらの過程において,リソソームの細胞内輸送を制御するBORC-Arl8b経路が関与することを見出しました。

以上の結果は,癌治療後に転移を伴う再発をする際,Arl8bを介したリソソームのエキソサイトーシスが重要な役割を果たしていることを示唆しています。本研究成果に基づき,治療後の癌細胞においてリソソームなどの細胞内小器官の細胞内動態をより詳細に解析することで,癌治療効果の向上に繋がる,さらなる知見や分子標的が得られることが期待されます。

本研究は,大学院医学研究院の白𡈽博樹教授(センター長)・清水伸一教授(副センター長)が総括する医理工学グローバルセンターにおいて,米国スタンフォード大学Quynh-Thu Le教授・Amato Giaccia教授との共同研究として実施されました。

本研究成果は,20201027日(火)公開のCommunications Biology誌(Nature姉妹紙)にオンライン掲載されました。

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細胞内リソソームの分布の共焦点レーザー顕微鏡によるイメージ
放射線の照射後,リソソームは細胞膜側に輸送され,細胞の浸潤能が亢進する。リソソーム輸送に関わるタンパク質であるArl8bの発現を抑制することによって,放射線照射後のリソソームの細胞膜側への分布が阻害され,浸潤能が抑制される。