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統合失調症薬クロザピンによる流涎症の原因の一端を解明~新規治療法確立への貢献に期待~(生命科学院 博士課程(当時) 石川修平,薬学研究院 准教授 小林正紀)

2020年10月30日

ポイント

●クロザピンの代謝物がクロザピンの副作用である流涎りゅうぜん症の原因の一端を担うことを解明。
●実際の臨床を模した条件で流涎症を発現する新たなモデル動物の開発に成功。
●原因物質の同定と新規モデル動物の開発が流涎症の新規治療法の確立に繋がることに期待。

概要

北海道大学大学院生命科学院博士課程(当時)の石川修平氏(現 北海道大学病院精神科神経科助教),同大学大学院薬学研究院の小林正紀准教授らの研究グループは,同大学大学院医学研究院と北海道医療大学大学院歯学研究科との共同研究により,統合失調症薬クロザピンの代謝物であるN-デスメチルクロザピンのムスカリン受容体を介した作用がクロザピン誘発性流涎症の一因であることを解明しました。

クロザピンは,治療抵抗性統合失調症に対して適応を有する唯一の薬剤ですが,多種多様な副作用を示すことが報告されています。中でも発現率が非常に高く,日常生活やクロザピン治療の継続を妨げる副作用である流涎症は,臨床上大きな問題となっています。しかし,流涎症の発現機序が不明であるため,流涎症の治療は困難を極めています。

本研究では,臨床研究において流涎症の重症度が夜間就寝中に高くなること,夜間の流涎症の重症度とN-デスメチルクロザピンの血液・唾液中濃度が強い相関性を示すことを解明しました。また,基礎研究では,クロザピンの経口投与によって流涎症を発現するモデル動物を開発し,流涎症発現時にN-デスメチルクロザピンの血液・唾液腺内濃度が高値であることを解明しました。さらに,唾液腺培養細胞を用いた研究では,N-デスメチルクロザピンが流涎症の誘発反応である細胞内のCa2+濃度上昇を誘発し,この反応がムスカリン受容体遮断薬によって阻害されることを明らかにしました。

本研究では,クロザピン誘発性流涎症の原因の一端を解明しただけでなく,新たなモデル動物の作成にも成功しました。これらの知見を応用し,新規治療法の開発に繋がることが期待されます。

なお,本研究成果は,2020829日(土)にJournal of Pharmacology and Experimental Therapeutics誌にオンライン掲載されました。

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クロザピン誘発性流涎症の発現機序