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「幻の魚」イトウの生息域を最新技術ではじめて解明~希少種分布の網羅的把握と生息環境の限定要因解明への貢献に期待~(農学研究院 教授 荒木仁志)

2020年11月6日

ポイント

●生態学の最新技術である環境DNA解析を駆使して絶滅危惧種イトウの生息域推定に成功。
●北海道内の120河川中,7河川でイトウ分布の証拠となるDNAを検出。
●捕獲や目視に頼らず,環境DNA検出による希少生物の分布や生息環境の解明に期待。

概要

北海道大学大学院農学研究院の荒木仁志教授らの研究グループは,生態・分布に謎が多く「幻の魚」とも呼ばれる絶滅危惧種イトウの生息域解明のため,環境DNA解析と呼ばれる最新技術を駆使した研究を行ってきました。その結果,川の水からイトウ由来のDNAを検出することで,対象種に触れることなく自然河川での生物量や生息環境を北海道内で網羅的に推定することに成功しました。

研究グループではイトウの生息が期待される北海道内120河川について,2015年から3年にわたり河川水を採集し,そこから取り出した環境DNAを基にイトウ由来のDNAを増幅・検出する解析を行いました。その結果,イトウは北海道内全域の少なくとも7河川に分布していることがわかりました。一方,これらの河川で環境DNAから推定された生物量には大きな隔たりがあり,道北・道東以外の河川ではイトウ個体群が絶滅の危機に瀕している可能性が示唆されました。

また,この解析に基づく推定イトウ分布に,地理情報システム(GIS)による地形・土地利用に関するデータを組み合わせることで,イトウ生息河川の特徴として流域地形の起伏が穏やかであること,流域に湿地やラグーンが存在することなどを明らかにしました。

これらの発見は,イトウが棲み易い河川流域環境の在り方を示すと共に,野外で捕獲や目視の困難な希少種,絶滅危惧種の広域分布・生態の解明に環境DNA解析技術が特効薬となり得ることを示しています。また外来種侵入の早期発見の可能性と併せ,今後の更なる技術発展・社会実装が生物多様性保全に大きく貢献する可能性を示した結果ともいえます。

なお,本研究成果は,2020116日(金)Frontiers in Ecology and Evolution誌にオンライン掲載されました。

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産卵遡上する「幻の魚」イトウと環境DNA調査風景。[撮影・写真提供:阿部幹雄氏]