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特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」の繁殖生態を解明~絶滅が危惧されるマリモの保全に大きく前進~(地球環境科学研究院 教授 大原 雅)

2020年11月12日

ポイント

●極めて低い割合であるものの,マリモが晩夏に遊走子を形成して繁殖していることを確認。
●低い遊走子形成率が,長期に及ぶ栄養成長を通じて球状形態の維持・発達に役立つとの見方を提示。
●絶滅が危惧されるマリモの保全に大きく寄与。

概要

北海道大学大学院地球環境科学研究院の大原 雅教授並びに若菜 勇客員教授(釧路国際ウェットランドセンター)らの研究グループは,阿寒湖におけるマリモ(Aegagropila linnaei)の繁殖実態を初めて明らかにしました。

美しい球状の集合体を形成することで知られるマリモは,環境省RDBで絶滅危惧I類に指定されるなど,世界的に個体数の減少が進んでおり,保全の基礎となる成長や繁殖に関する研究の進捗が求められています。マリモが遊走子(胞子)を形成することは古くから知られていましたが,観察例が極めて少なく,マリモ集団は主に栄養成長によって維持されていると考えられてきました。

本研究では,国の特別天然記念物に指定されている阿寒湖のマリモを対象に,2017年と2018年の春から秋にかけて,湖内の生育状態の異なる5カ所の集団について遊走子の形成実態を調査しました。その結果,4本鞭毛を有する遊走子の形成が,藻体が集まって球状になる集合型のマリモ集団1カ所と藻体が岩石等に付着する着生型の集団の2カ所で確認されました。遊走子の形成時期は,両年とも8月中旬から9月上旬にかけてで,再現性があるものの,遊走子を形成した藻体の割合は最大で1.3%と極めて低いことが明らかになりました。これまで,マリモの遊走子形成は稀にしか起こらない偶発的な現象と考えられてきましたが,今回の結果は低い割合ではあっても一定の時期に繁殖していることを示します。また,遊走子が発芽・成長することも確認されており,遊走子が新しい個体の供給源になる一方で,低い形成率が長期に及ぶ栄養成長の継続を通じてマリモの特徴である集合形態の維持・発達にも寄与しているものと見られます。

なお本研究成果は,2020917日(木)公開のAquatic Botany誌にオンライン掲載されました。

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阿寒湖のマリモ集団と遊走子を形成したマリモ藻体