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メスコオロギがオスの呼び歌に近づく過程を解明~オスへのアプローチはあの手この手~(理学研究院 教授 小川宏人)

2020年11月18日

ポイント

●メスコオロギがオスの呼び歌に近づく行動は二つのステップ(彷徨・接近)に分かれることを発見。
●後半の接近フェイズへの移行は音の刺激以上にメスが「その気になる」ことが重要。
●状況に応じて適切に行動するための神経メカニズムの解明への貢献に期待。

概要

北海道大学大学院理学研究院の小川宏人教授らの研究グループは,メスコオロギがオスの呼び歌に近づいて行く音源定位と呼ばれる行動を詳細に観察して,メスがどのようにしてオスに近づいて行くのかを明らかにしました。

動物は交配のために様々な方法で異性の個体に近づいていきます。コオロギはオスが翅をこすり合わせて呼び歌を奏で,メスはその歌に呼び寄せられてオスに近づいていきます。この行動は音源定位と呼ばれ,どのように音源の方向を認識するかについて,これまでたくさんの研究が行われてきましたが,メスコオロギがどのような過程を経てオスへ近づいて行くかはよくわかっていませんでした。

研究グループは,防音室内に設置した円形アリーナの中心からメスコオロギをスタートさせ,アリーナ壁のスピーカーから人工歌を流して,メスがどのような経路をたどり,どのくらいの速さで音源に近づいて行くかを調べました。その結果,メスは呼び歌を聴いてもすぐに近づき始めるのではなく,最初はスタート位置のまわりをウロウロとして(彷徨フェイズ),ある時突然まっすぐに音源に近づいて行くことを発見しました。このまっすぐ近づいて行く「接近フェイズ」の開始場所や時間はバラバラで,そこでの音の大きさやそれまで聞いていた時間には関係しません。つまり「接近フェイズ」に移るのは,外部からの刺激に対する単純な反応ではなく,コオロギ内部の状態が変化して起こると考えられます。さらに,「接近フェイズ」の途中で呼び歌を失うと,頻繁にGo-Stopを繰り返す「探索フェイズ」に移ることも発見しました。このように,メスコオロギは単に呼び歌に対する反射的な行動の結果として音源に定位するのではなく,音響的環境やコオロギ内部の状態に依存して,いくつかの行動戦略を切り替える複雑なプロセスによってオスに近づいて行くと考えられます。

本研究の行動解析結果に加えて,さらに神経解剖学や神経生理学的な知見を積み重ねることで,状況に応じて適切に行動するための神経メカニズムの解明につながることが期待されます。

なお,本研究成果は,20201118日(水)公開のJournal of Experimental Biology誌に掲載されました。

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201118_prpic.jpg
メスコオロギ(左)がオスコオロギ(右)の鳴き声に呼び寄せられる様子(音源定位)