新着情報

ホーム > プレスリリース(研究発表) > 北海道内の神経疾患患者のダニ媒介性脳炎ウイルス感染を調査~見過ごされてきた感染者が明らかに~(医学研究院 准教授 矢部一郎)

北海道内の神経疾患患者のダニ媒介性脳炎ウイルス感染を調査~見過ごされてきた感染者が明らかに~(医学研究院 准教授 矢部一郎)

2020年11月27日
北海道大学
長崎大学

ポイント

●道内の神経疾患患者2,000名及び健常者250名に対してダニ媒介性脳炎の抗体調査を実施。
●中枢神経系の炎症性疾患患者にダニ媒介性脳炎患者がいた事が判明。過去にダニ媒介性脳炎ウイルスに感染した人達の存在が示唆。
●今後調査研究を進める事で,感染状況の実態の解明と日本での流行制御対策への貢献に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院の佐々木秀直名誉教授,矢部一郎准教授,長崎大学感染症共同研究拠点の好井健太朗教授(元北海道大学大学院獣医学研究院)らの研究グループは,北海道内の神経疾患患者2,000名と健常者250名を対象にダニ媒介性脳炎ウイルスの感染状況調査を行いました。

ダニ媒介性脳炎は,ユーラシア大陸広域で年間約10,000人の患者が発生しているマダニ媒介性の感染症で,重篤な脳炎による神経疾患を引き起こし,致死率が高い脳炎です。日本では北海道で5名の患者が報告されていますが(内2名は死亡),日本において原因となるダニ媒介性脳炎ウイルスの感染状況に関する情報は乏しく,明らかになっていない感染者がいる可能性が疑われています。

今回,このような明らかになっていない感染者を調べるために,2010年~2018年までに集められた神経疾患患者の血液の検査を行ったところ,髄膜炎や脳炎などの炎症性疾患の患者の内,3名から直近の感染を示す抗体が検出され,ダニ媒介性脳炎であった事が示されました。また,4名の患者と健常者の中からも1名から過去にウイルスの感染があった事を示す抗体が検出されました。

これらの結果から,過去にもダニ媒介性脳炎ウイルスに感染した人が存在しており,その中には脳炎や髄膜炎を発症した人がいる事が明らかになりました。このような大規模のダニ媒介性脳炎の感染状況調査は日本で初めてのものであり,今後は今回の調査成績を踏まえ,さらに研究を進める事によって,日本における本疾患の流行を制御する対策立案に貢献できるものと考えられます。

なお本研究成果は,20201028日(水)公開のMicroorganisms誌に掲載されました。

詳細はこちら

201127_prpic.jpg
ダニ媒介性脳炎ウイルスの自然界での感染環