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小脳全体の活動を調節する神経回路の解明~小脳の高次機能解明への貢献に期待~(保健科学研究院 准教授 宮﨑太輔)

2020年11月30日

ポイント

●小脳ルガロ細胞を可視化するマウスの作成に成功。
●小脳活動を強力に調節しうる新規神経回路の同定。
●セロトニンによる小脳活動調節の回路基盤の解明。

概要

北海道大学大学院保健科学研究院の宮﨑太輔准教授らの研究グループは,慶応義塾大学医学部・田中謙二准教授,北海道大学大学院医学研究院の渡辺雅彦教授らとの共同研究により,小脳ルガロ細胞が蛍光を発する遺伝子改変マウスの作成に成功しました。

ルガロ細胞は小脳に存在する多様な抑制性介在ニューロンの1つですが,どのような神経回路を作っているかという基盤情報は不十分なままでした。研究グループがマウスを使ってルガロ細胞の神経回路を調べたところ,ルガロ細胞は興奮性・抑制性・セロトニン作動性の多様な神経入力を受けていることがわかりました。これらの入力を受取るルガロ細胞の樹状突起同士は互いに結合して網目構造を作り,この網目構造がバンド(小脳帯状構造)と呼ばれる小脳の機能単位となる帯域とほぼ一致して広がっていました。ルガロ細胞からの軸索出力は,同一帯域内に存在する他の抑制性介在ニューロン(バスケット細胞,星状細胞,ゴルジ細胞)を強力に支配していました。これらの標的ニューロンは,小脳活動を作り出すプルキンエ細胞や顆粒細胞を抑制する介在ニューロンであることを考えると,ルガロ細胞は帯域内の多様な抑制性介在ニューロンの統合的立場にあり,ルガロ細胞の活動は他の抑制性介在ニューロンの抑制(脱抑制)を介して小脳活動の生成や亢進へ導くことを示唆します。

また,ルガロ細胞の活動はセロトニンにより強力に調節されていることが知られていましたが,今回,ルガロ細胞はセロトニン作動性軸索の選択的標的として非シナプス性接着を密に形成していることも発見しました。セロトニンには睡眠・覚醒,心の安定,生体リズム,体温調節など多様な生理作用があり,セトロニンニューロンの活動性は個体の置かれた状況に応じて変化することが知られています。したがって,ルガロ細胞は小脳のセロトニンセンサーとして機能し,今回明らかになった特徴的な神経回路を介して,状況に応じた小脳帯域の活動性制御と小脳による高次機能の発現に貢献するものと考えられます。

本研究成果は,2020526日(火)公開のNeuroscience誌にオンライン掲載されました。

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図.小脳帯域とルガロ細胞の分布
アルドラーゼCを発現するプルキンエ細胞(図右上:右側の赤い円形細胞)と発現しない細胞は交互に並ぶ帯域を形成する(図左)。ルガロ細胞(図右上:緑,図右下:白)は同一帯域内に樹状突起を広げて相互に連結し,網目状の入力を受取る構造を作る。