2020年12月23日
ポイント
●道東コムケ湖で採取した渡り鳥の糞便から高病原性鳥インフルエンザウイルスを分離。
●分離されたウイルスは2020年初めにヨーロッパで流行していたウイルスと酷似。
●世界中のウイルスが渡り鳥によって運ばれる事態となってきたことから,警戒が必要。
概要
北海道大学大学院獣医学研究院の迫田義博教授らの研究グループは,2020年10月に道東コムケ湖で採取した渡り鳥の糞便からH5N8亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスを分離しました。分離ウイルスは今冬に鹿児島県や韓国で分離されたウイルスや,2020年初めにヨーロッパで流行したウイルスと非常に近縁であることがわかりました。
高病原性鳥インフルエンザは,病原性の高い鳥インフルエンザウイルスが鳥類に感染して起こる病気で,2020年12月14日現在,日本でもH5N8亜型による高病原性ウイルスの感染が家禽では9県,野鳥では8道県で報告されています。国内での大流行に先駆け,研究グループは2020年10月に北海道東部のコムケ湖にて採取したオナガガモの糞便からH5N8亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスを分離しました。分離ウイルスの遺伝子を調べたところ,2020年10月と11月にそれぞれ韓国と鹿児島県で分離されたウイルスとも非常に近縁であり,さらに2019年末から2020年初めにかけてヨーロッパで流行したウイルスと近縁であることがわかりました。その一方で,今冬にヨーロッパにて流行しているH5N8ウイルスとは遺伝子上では異なっていることもわかりました。ウイルスの抗原性を調べたところ,今回分離されたウイルスは2017年熊本県にて流行したウイルスと近縁でしたが,2016年に秋田県の動物園のコクチョウから分離されたウイルスとは離れていました。
今回分離されたウイルスの遺伝子情報から,渡り鳥によってわずか10ヶ月でヨーロッパから東アジアへ運ばれたことが確認できました。ヨーロッパでは短期間に異なるウイルスが流行していることから,渡り鳥の営巣湖沼である北方圏に病原性の高いウイルスが定着している可能性が懸念されます。渡り鳥による鳥インフルエンザの拡散を想定し,国内でもその発生に十分に警戒することが急務であることが確認されました。
なお,本研究成果は,2020年12月14日(月)公開のViruses誌に掲載されました。
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