2021年1月14日
ポイント
●マダニの唾液が,免疫チェックポイント因子PD-1/PD-L1発現を誘導することを発見。
●マダニの唾液が,PD-1/PD-L1経路を介して宿主のT細胞応答を抑制することを証明。
●マダニの唾液は高濃度のPGE2を含んでおり,PD-L1発現誘導に関与することを示唆。
概要
北海道大学大学院獣医学研究院,ブラジル連邦共和国のリオグランデドスール連邦大学,リオデジャネイロ連邦大学による国際共同研究グループ(代表:今内 覚准教授)は,マダニの一種であるオウシマダニ(Rhipicephalus microplus)が,吸血時に宿主の免疫応答を抑制する新たな機序を解明しました。
オウシマダニは,主にウシに寄生する一宿主性のマダニであり,亜熱帯及び熱帯地域を中心として世界的に分布しています。吸血被害だけでなくバベシア症やアナプラズマ症など様々なマダニ媒介性感染症を伝播し,畜産の生産に深刻な被害を与えています。現在,殺ダニ剤を用いた制御法が主流であるものの,殺ダニ剤に抵抗を持ったオウシマダニの出現等により新規制御法の確立が強く求められています。
本研究では,免疫チェックポイント因子であるPD-1及びPD-L1に着目して,オウシマダニ由来唾液が引き起こす免疫抑制との関連を解析しました。まず,試験管内(in vitro)においてウシの免疫細胞とオウシマダニ由来の唾液を培養したところ,PD-1及びPD-L1の発現が誘導されることを発見しました。さらに解析した結果,マダニの唾液がT細胞の活性化及びサイトカインの産生を抑制すること,抗PD-L1抗体を用いてPD-1/PD-L1経路を阻害するとマダニの唾液によるサイトカイン産生の抑制が観察されなくなることを明らかにしました。また,マダニ唾液を性状解析した結果,免疫チェックポイント因子の発現上昇に関与することが知られている生理活性物質プロスタグランジンE2(PGE2)が高濃度に含まれていることが明らかとなりました。
今回のオウシマダニの唾液の免疫学的解析により,マダニがPD-1/PD-L1経路を介して宿主の免疫応答を抑制していることを証明した初めての研究であり,本研究で得られた知見は,マダニ媒介性病原体の伝播機序の解明やマダニに対する新規制御法への応用が期待されます。
なお,本研究成果は2021年1月13日(水)公開のScientific Reports誌に掲載されました。
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