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水素ガスで10万倍に高感度化したMRIで細胞死を可視化 ~放射線被曝のないポスト核医学検査の実現に期待~(情報科学研究院 准教授 松元慎吾)

2021年2月17日
北海道大学
日本医療研究開発機構

ポイント

●水素ガスで13C MRI検出感度を数万倍に励起する量子技術を開発し,超偏極13C フマル酸を作成。
●肝障害モデルマウスにおいて13C MRIによる細胞死のイメージングに成功。
●放射線被曝リスクのある核医学検査に代わる被曝の無い分子イメージング診断の実現に期待。

概要

北海道大学大学院情報科学研究院の松元慎吾准教授,千葉大学大学院理学研究院の橋本卓也特任准教授,自治医科大学分子病態治療研究センターの武田憲彦教授,日本レドックス株式会社,株式会社Transition State Technologyらの産学連携研究チームは,量子状態を揃えた水素ガスを用いて,天然にも存在する安定同位体である13C*1核を励起し,核磁気共鳴画像MRIで数万倍も高感度に検出できる"超偏極*2"分子を瞬時かつ常温・低磁場で作り出せる量子技術の開発に成功しました。この技術と構造異性体に選択的なルテニウム触媒を用いることで,1.5Tの熱平衡状態と比べて10万倍強力な13C MRI信号を出すフマル酸分子(超偏極13C フマル酸)を作成できました(図1A)。

フマル酸は,グルコースの代謝物であり生体内にも豊富に存在します。しかし,外来的に投与したフマル酸は細胞の中に入りにくい性質のため,健常な組織・臓器ではほぼ全く代謝されません。一方で,細胞膜の破壊を伴う細胞死が起こり,本来は細胞内のみに存在するはずのフマル酸代謝酵素であるフマラーゼが細胞の外にばら撒かれている組織(例えば炎症部位)においては,フマル酸からリンゴ酸への代謝が起きます(図1B)。今回,水素ガス技術により作成した超偏極13Cフマル酸を肝障害モデルマウスに投与し13C MRI撮像を行うことで,肝臓の非侵襲的な細胞死イメージングに成功しました。

今後,水素ガスによる13C 励起技術は,現在用いられている放射線被曝リスクのある核医学検査(PET/SPECT)に取って代わる,安く安全で汎用性の高い安定同位体標識による画像診断法として実用化が期待されます。

なお,本研究成果は,日本医療研究開発機構(AMED)先端計測分析技術・機器開発プログラムによるものであり,2021年2月16日(火)公開のChemPhysChem誌の特集号(水素ガスによる超偏極技術の第1回世界会議PERM開催を記念)に掲載されました。

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投与したフマル酸とリンゴ酸の13C MRI信号強度の比から肝障害モデルマウスの壊死領域を可視化