新着情報

ホーム > プレスリリース(研究発表) > 免疫チェックポイント阻害薬の治療予測方法の開発に成功~癌免疫治療への貢献に期待~(医学研究院 教授 小林弘一)

免疫チェックポイント阻害薬の治療予測方法の開発に成功~癌免疫治療への貢献に期待~(医学研究院 教授 小林弘一)

2021年2月8日

ポイント

●抗PD-1剤,抗CTLA-4剤の治療効果予測バイオマーカーを発見。
●既存のバイオマーカーと組み合わせて予測精度を上げることも可能。
●免疫チェックポイント阻害剤治療における効果の予測が可能に。治療法・薬剤選択の可能性に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院の小林弘一教授らの研究グループは,米国テキサスA&M大学,MDアンダーソン癌センターと共同で,免疫チェックポイント阻害剤を使った癌治療における治療効果を予測する方法の開発に成功しました。

免疫の抑制分子をターゲットとしたチェックポイント阻害剤は,2019年のノーベル医学賞の受賞理由となるなど,癌治療において画期的な成果をあげつつあります。免疫チェックポイント阻害剤はヒトの免疫系を活性化する事により,癌細胞を駆除するという画期的なものです。しかしながら,非常に高価な治療法であり,重篤な副作用が患者のおよそ4分の1から半分に起こるにも関わらず,効果が認められる癌患者は一番成績の良い悪性黒色腫という皮膚癌においてさえ,2030%にすぎないという課題もあります。バイオマーカーと呼ばれる予測因子がいくつか開発されましたが,いずれも予測能力が十分ではないのが現状です。そのため,治療開始前に,免疫チェックポイント阻害剤が効くか効かないかを予測判定できる技術開発が待ち望まれていました。

今回,研究グループは,免疫系の主要因子NLRC5という遺伝子に注目しました。NLRC5は癌抗原を免疫系が認識するために必要な分子です。同研究グループは,以前NLRC5が欠損している癌患者では免疫系が十分に活性化せず,5年生存率が著しく低下する事を突き止めていました。今回,抗PD-1,抗CTLA-4といった免疫チェックポイント阻害剤治療時においては,癌におけるNLRC5の発現が十分である事が必要で,発現が低い患者群では治療効果が低いことが明らかになりました。さらに,既存のバイオマーカーと組み合わせて使用することにより,免疫チェックポイント阻害剤治療効果や5年生存率の予測に役立つ事がわかりました。これらの研究成果によって,医師がそれぞれの癌患者に一番効果のある治療法,薬剤を選択する事を可能にしていく事が期待されます。

なお,本研究成果は,202125日(金)公開のScientific Reportsにオンライン掲載されました。

詳細はこちら

210208_prpic.jpg
癌細胞を攻撃する免疫細胞。癌細胞表面上に提示された癌抗原を認識した細胞障害性Tリンパ球(図では小さな細胞)は癌を攻撃し排除することにより,癌の発生と増殖を抑えている。