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トレハロースによる虚血後の心機能改善にはじめて成功~心筋梗塞や心臓手術への貢献に期待~(医学研究院 講師 新宮康栄)

2021年2月24日

ポイント

●天然物質である二糖類の一種,トレハロースによる心臓虚血後の心機能改善にはじめて成功。
●トレハロースで灌流を行った群では,使用しなかった群と比較して有意に心臓の収縮力が増加。
●心筋梗塞後や心臓手術後の心機能を改善させる新たな方法の進展に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院博士課程の安東悟央氏,同循環器・呼吸器外科学教室の新宮康栄講師,若狭 哲教授ら,循環器・呼吸器外科学教室の研究グループは,天然物質である二糖類の一種トレハロースを心臓に投与することで,虚血後の心機能を改善させることにはじめて成功しました。

研究グループは,ラットの心臓を用いて,35分間,トレハロースを2%の濃度で含んだ酸素化した生理的な液体で灌流し拍動させました。その後心臓の灌流を止め,20分間,完全に心臓を虚血状態にしました。再度灌流した後,2%濃度のトレハロースで灌流を行った群では,トレハロースを使用しなかった群と比較して有意に心臓の収縮力が増加しました。

トレハロースは,他の二糖類とは違う特殊な化学構造をもちます。それゆえ,植物では不凍液としての働きが,動物では抗炎症作用や抗酸化作用などが報告されています。さらには,2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典博士の研究テーマで知られる「オートファジー」を活性化させる作用も,トレハロースでは報告されています。

今回研究グループは,はじめて心臓の虚血実験にトレハロースを応用し,心機能の改善に成功しました。今後さらなるトレハロースの効果メカニズムに関する研究が必要ですが,トレハロースは私たちが日々摂取する食材にも含まれている比較的安全な物質であることから,医療への応用が大いに期待できます。心臓が一時的に虚血になる心筋梗塞や心臓手術に応用できれば,心不全などの合併症を予防できる可能性も期待されます。

なお,本研究成果は,2021222日(月)公開のBiochemical and Biophysical Research Communications誌にオンライン掲載されました。

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左心室の収縮力(maximum dpdt)