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ヒグマの過酷な夏,乗り切る鍵はハイマツとサケだった~ヒグマが人里に出没する機序の解明に期待~(獣医学研究院 准教授 下鶴倫人)

2021年3月23日

ポイント

●知床のヒグマが高標高帯と海岸という全く異なる環境の食物に依存していることが明らかに。
●ハイマツとサケ科魚類の採食量が少ない年に,ヒグマの夏の栄養状態が悪化することを発見。
●ヒグマが人里に出没する原因解明の手がかりとなることに期待。

概要

北海道大学大学院獣医学院博士課程の白根ゆり氏,同獣医学研究院の下鶴倫人准教授らの研究グループは,北海道北東部に位置する知床半島においてヒグマの食性と栄養状態を7年間にわたって調査し,夏の食性の年次変動によってメス成獣ヒグマの栄養状態が変化することを明らかにしました。

夏の知床半島では,骨が浮かび上がってみえるほどガリガリに痩せたヒグマが目撃されることがあります。そこで研究グループは,食性の季節変化や年次変動によって,ヒグマの栄養状態がどのように変化するのかに注目しました。ヒグマ糞の内容物を分析したところ,8月には高標高帯に分布するハイマツを,9月には河口に遡上するサケ科魚類を主に食べていることがわかりました。また,直接観察によって,ヒグマの栄養状態は6月から8月まで悪化し続け,サケ科魚類が利用可能となる9月に回復し始めることがわかりました。さらに,ハイマツとサケ科魚類をたくさん食べられなかった年には栄養状態の回復が遅れ,特に過酷な夏を過ごしていたことが明らかとなりました。

本研究成果は,ヒグマが海岸から高標高帯まで移動することが可能で,夏の短期間に海と山という全く異なる2つの環境で食物を得ることができる,知床半島ならではのユニークな生態を表しています。知床半島では,夏の食物不足がヒグマの人里への出没につながっているのではないかと考えられており,本研究で得られた発見が,ヒグマ出没の機序を解明する一助となることが期待されます。

なお,本研究成果は,2021年3月18日(木)公開のEcology and Evolution誌に掲載されました。本研究は,(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(4-1905; JPMEERF20194005)の助成を受けて実施されました。

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ハイマツとサケ科魚類をたくさん食べた年には栄養状態が早く回復し始める