2021年4月12日
ポイント
●環境変化に応じてマウスが推論している程度を評価する実験方法を確立。
●複数のセロトニン神経核の中でも背側縫線核が推論に関与していることを特定。
●生物の知能理解に基づく人工知能への応用や精神疾患治療(強迫性障害など)への応用に期待。
概要
北海道大学大学院医学研究院の大村 優講師らの研究グループは,脳の背側縫線核という場所のセロトニン神経活動が推論を行うために必要であることを明らかにしました。
これまでの研究では,セロトニンが推論を用いた意思決定に関与することが間接的に示唆されてきましたが,技術的な限界から直接的な証拠は得られていませんでした。そこで本研究では,近年発展著しい光遺伝学的手法を用いて,脳内に複数存在するセロトニン神経核を別々に操作することで直接的な証拠を得ました。マウスが推論を行っていると考えられるタイミングでセロトニン神経活動だけを抑制すると,背側縫線核というセロトニン神経核を抑制した場合にのみ,マウスがほとんど推論をしないで,単純に習慣的な行動のみを繰り返すことがわかりました。つまり,直接経験したことだけに基づいて行動するか,それとも直接経験していないことも脳内でシミュレーションして推論するか,という生物の生存に重要な調節を一部のセロトニン神経が行っていると考えられます。
従来は脳内セロトニンは不安や幸福感などに関与していると考えられてきましたが,今回の研究はセロトニンの新たな役割を見出したものともいえます。また,この習慣-推論のバランス調節は人工知能が学習していく上でも重要な問題であり,強迫性障害などの一部の精神疾患においてもこの調節に不調をきたすことが知られています。将来的にはこの研究が脳科学に基づいた人工知能への応用や精神疾患治療への応用につながることが期待されます。
なお,本研究成果は,2021年4月9日(金)公開のCurrent Biology誌にオンライン掲載されました。
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