2021年5月18日
北海道大学
東京大学
三重大学
ポイント
●北極域で2003-2017年にPM2.5が高濃度となった20ヶ月中,13ヶ月が夏季で森林火災由来。
●夏季シベリア・亜寒帯北米の森林火災と西欧熱波を同時誘発させうる気候パターンを初めて特定。
●同様の気候パターンは2003年以降に発生しうることを発見。熱波・森林火災予測発展へ期待。
概要
北海道大学北極域研究センターの安成哲平助教,東京大学先端科学技術研究センターの中村 尚教授,三重大学の立花義裕教授及び米国NASA,韓国UNISTによる国際研究チームは,近年夏季に多発するシベリア・亜寒帯北米(アラスカ・カナダ)の森林火災と西欧の熱波を同時に発生させうる高気圧性循環(気候)パターンを初めて特定し,森林火災由来の大気エアロゾルの増加が夏季北極域とその周辺の高濃度PM2.5の原因であることを初めて明らかにしました。
NASA衛星による火災データやNASAの全球データセットMERRA-2の解析から,近年温暖化の進行が知られている北極域において2003-2017年(15年間)のPM2.5濃度が高い20ヶ月のうち13ヶ月は夏季(7-8月)で,近年多発する森林火災由来の有機炭素エアロゾルから大きな影響を受けていることが明らかとなりました。また,この時の典型的な大気循環場として,西欧に熱波,シベリア・亜寒帯北米(アラスカ・カナダ)に森林火災を同時誘発させうる気候パターンを初めて特定しました。さらに,同期間でユーラシア大陸上の気候変動パターンを表す指標の一つ(Scandinavian pattern index)に基づいて独立解析を行い,この大気循環場との類似性を偶然にも発見し,解析期間を1980年まで延ばしたところ,この気候パターンは2002年以前には見られず,近年にのみ突出して見られることが明らかになりました。夏季に西欧からシベリア,亜寒帯北米にある3つの高気圧が北極周辺を環状に取り囲む特徴から,本研究でこの気候パターンをcircum-Arctic wave (CAW) patternと命名しました。
本研究で発見された近年のCAWパターン発生・発達メカニズムや温暖化との関係などが今後解明されれば,夏季の西欧熱波やシベリア・アラスカ・カナダの森林火災の同時発生を高精度に予測できる可能性が大いに期待されます。これは同時に,森林火災由来の大気汚染(PM2.5)予測にも直結し,北極及び周辺域の大気汚染対策への貢献も期待されます。
本研究成果は,2021年5月17日(月)公開のEnvironmental Research Letters誌に掲載されました。
なお,本研究は,北極域研究推進プロジェクト(ArCS),北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)ほか,複数の研究費による支援を受けて進められました。
詳細はこちら