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免疫チェックポイント阻害療法抵抗性攻略へ一歩前進~難治性癌治療への貢献に期待~(医学研究院 教授 佐邊壽孝)

2021年5月18日

ポイント

●膵癌に対する免疫チェックポイント阻害療法改善策をモデル動物にて実証。
●互いに異なったメカニズムで癌悪性度を駆動する二大因子(ARF6MYC)を同時に抑制。
●難治性癌に対する治療戦略の臨床実装に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院の佐邊壽孝教授,平野 聡教授,橋本あり助教らの研究グループは,モデル実験動物を用い,膵癌に対する免疫チェックポイント阻害療法を改善する方法論の提示に成功しました。

研究グループは,これまで約20年にわたり,癌細胞や免疫細胞の運動性,癌の浸潤転移や悪性度進展・免疫回避を制御する中核的分子メカニズムを研究してきました(PNAS 2019,Nat Comm 2018,Nat Comm 2016,JCB 2016,JCB 2012,Nat Cell Biol 2008,EMBO J 2007,Nat Immunol 2006,PNAS 2006,EMB0 J 2005,PNAS 2004,JCB 2004,EMBO J 2004,JCB 2002,PNAS 2000など)。癌の中でも最も難治性であり治療抵抗性であるのは膵癌です。その5年生存率は10%を超えず,近年話題の免疫チェックポイント阻害療法も適用認可されていません。今回,これまで解明した癌難治性・治療抵抗性駆動分子メカニズムに基づき,研究用試薬と代表的ヒト膵癌マウスモデルを用い,免疫チェックポイント阻害療法の治療成績改善に関する実証実験を行いました。

KRASとTP53の遺伝子変異がヒト癌で頻繁に見られます。これら両遺伝子の変異が起こっていることが膵癌の特徴です。研究グループは,これら2つの癌遺伝子が互いに相まって膵癌の浸潤転移や免疫回避を亢進させることを明らかにし,先に報告しています。乳癌や腎癌,肺癌などに関する研究を行っていますが,膵癌で得られた知見はそれらにも適用できます。

研究グループが発見したシグナル経路の中核を成すのはARF6と呼ばれる蛋白質です。それがKRAS変異によって異常高発現し,癌細胞の浸潤転移や免疫回避の促進要因となります。ARF6は癌に特有なミトコンドリア制御にも関与し,癌細胞生存維持に深く関与します。今回,ARF6-AMAP1経路阻害は免疫チェックポイント阻害剤に対して相乗的効果を発揮するのか否かを検討しました。また,MYC蛋白質の異常発現も,癌の増殖や悪性度に深く関係することはよく知られています。佐邊教授らのこれまでの研究により,ARF6MYCの両者を同時に抑制する方法が推定されていました。これまでの研究では分子生物学的方法論を用いていますが,臨床現場に結びつけるためには,臨床適用が見込まれる薬剤を用いる必要があります。今回,研究用試薬を用い,KRAS変異に起因するARF6MYCの異常発現を薬剤によって同時に抑制できること,KRASが変異していない細胞での抑制は温和であること,さらに,そのことによって膵癌に対する免疫チェックポイント阻害療法を著しく改善することを実証しました。今回の薬剤はそのままではヒトに応用できませんが,ヒトに適用できるよう改善が進められています。また,今回用いた薬剤以外にも幾つかの候補薬があり,それらも順次,試験をしていく予定です。

なお,本研究成果は,2021517日(月)公開のCell Communication and Signaling誌にcommentary(論評)としてオンライン掲載されました。

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