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皮膚の遺伝病で見られる自然治癒現象のしくみを解明~遺伝病に対する新しい治療法開発に一歩前進~(医学研究院 助教 宮内俊成)

2021年5月20日

ポイント

●皮膚の遺伝病である"角化症(かくかしょう)"で,症状の一部が自然に治癒することを発見。
●原因となる遺伝子異常はDNA複製の途中で起こる"組換え"というしくみで消えることを証明。
●皮膚に限らず,遺伝病全般に対するあたらしい治療法の開発に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院皮膚科学教室の宮内俊成助教と乃村俊史講師(当時。現筑波大学医学医療系皮膚科教授)らの研究グループは,皮膚の遺伝性角化症のひとつである毛孔性紅色粃糠疹5型において,病気の原因である遺伝子異常が,体細胞組換えというしくみにより皮膚の一部から消失して自然に治癒することを世界で初めて発見し,さらにそのメカニズムの一端を解明しました。

遺伝子の異常により発症する遺伝病には,一般的に根本的な治療法がありません。そのため,症状を少しだけ和らげる治療や処置を行うしかないのが現状です。一方,一部の遺伝病ではその遺伝子異常が体の一部で自然に消えて症状がなくなる自然治癒現象が知られています。同研究グループではこれまでに複数の皮膚遺伝病で自然治癒現象を発見し,遺伝子異常が消えるしくみとして体細胞組換えというステップが重要であることを報告してきました。

今回の研究では,まずCARD14遺伝子異常で発症する毛孔性紅色粃糠疹5型患者の皮膚に,正常に見える領域がたくさんあることを見つけ,その部分の皮膚や遺伝子の異常が消えて正常化していることを確認しました。次に遺伝子変異が消えた理由を解析したところ,過去に解析した他の病気と同じ体細胞組換えのステップを経ていることがわかりました。さらに,CARD14遺伝子異常と体細胞組換えの関連を調べたところ,CARD14遺伝子異常に伴うDNA複製の変化が組換え現象の誘導に重要である可能性が示されました。

この研究により自然治癒現象を生じる疾患が新たに見つかり,さらにDNA複製の過程で生じる体細胞組換えが重要な役割を果たす可能性が示唆されました。今後,より詳細なメカニズムが解明されれば,体細胞組換えをうまく利用して多くの遺伝病を治療できる可能性があると考えられます。

なお,本研究成果は,2021517日(月)公開のAmerican Journal of Human Genetics誌にオンラインで先行掲載されました。

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毛孔性紅色粃糠疹5型では全身で赤いガサガサした皮膚症状が見られるが,その中に体細胞組換えにより遺伝子変異が消失した正常化皮膚領域が多数出現する。