2021年6月15日
ポイント
●鉛汚染地域のイヌにおけるDNAメチル化の網羅的解析。
●神経発生に重要な遺伝子を含むイヌゲノム上の数百カ所のDNAメチル化の変化を検出。
●鉛中毒における新規バイオマーカー樹立やメカニズム解明・治療開発に期待。
概要
北海道大学大学院獣医学研究院の山崎淳平特任准教授と中山翔太助教,石塚真由美教授,ザンビア大学獣医学部のジョン・ヤベ講師らの研究グループは,ザンビア共和国カブウェ鉱山地域のイヌの血液試料を収集し,鉛の高濃度暴露によるDNAメチル化への変化を解析しました。
イヌの血中鉛濃度は,高暴露群の平均値が43.6μg/dL,低暴露群の平均値が7.2μg/dLでした。20サンプル全ての症例におけるDNAメチル化の相関性解析を検討したところ一部のサンプルを除き鉛への高暴露群と低暴露群で大きく2つのクラスターを形成することが判明しました。また,高暴露群と低暴露群の間でDNAメチル化レベルが異なるイヌゲノム上の位置が827箇所同定され,その多くは高暴露群においてDNAメチル化レベルが高いことが判明しました。加えてこれらの部位の近くには,NGF遺伝子など神経発生に重要な遺伝子が含まれていました。
これらの結果から,今回検出されたDNAメチル化の変化が同遺伝子の発現にも関与し,神経毒性を示す鉛中毒のメカニズムにエピジェネティックな変化,特にDNAメチル化の変化が関与していることが示唆されました。イヌで認められた本研究の成果は,ヒトやそれ以外の動物でも同様の変化が起こっていることを示唆しており,将来的な鉛中毒におけるバイオマーカーの樹立や,エピジェネティックをターゲットとした鉛中毒治療への可能性を秘めています。
なお,本研究成果は,2021年5月3日(月)公開のEnvironmental Pollution誌にオンラインで掲載されました。
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