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皮膚疾患の病態再現を目指した表皮モデルを計算機上に構築〜数理モデリングを用いた新しい皮膚疾患治療方法への応用に期待〜(電子科学研究所 教授 長山雅晴)

2021年6月25日
北海道大学
中央大学
科学技術振興機構

ポイント

●角化異常の病態を計算機上に再現することを可能とする表皮モデルの構築に成功。
●角層バリア機能の恒常性維持メカニズムを理論的に解明。
●医学・生命科学と協働した皮膚科学の理論研究の進展に期待。

概要

北海道大学電子科学研究所の長山雅晴教授,小林康明准教授,中央大学理工学部の大野航太助教らの研究グループは,真皮の変形を考慮した3次元表皮構造を計算機上に再現する数理モデルの構築に成功しました。

皮膚の持つバリア機能は,表皮細胞が規則的に積み重なった表皮構造に起因し,特に角層バリア機能は,基底層から供給される表皮細胞が継続的に角質細胞へと分化することで動的に維持されています。この表皮の恒常性維持は様々な皮膚疾患によって破壊されることがあり,その影響は多くの場合に表皮だけでなく,真皮の形態変化を伴います。また老化による真皮の形態変化が表皮構造に影響を与えることも知られています。そこで表皮構造に真皮の形態がどのように影響するかを数理モデルにより予測することを試みました。同研究グループの構築した数理モデルは,安定した表皮の層構造を作り出すことができます。また,その表皮の恒常性維持は基底層からの細胞供給量に依存することを示しました。さらに,真皮の形態変化をモデル化することで,真皮の硬さが表皮構造や角層バリア機能にどのように影響するかを調べることができました。その結果,真皮を硬くすると表皮が薄くなり,角層バリア機能が低下することがわかりました。

さらに「魚の目(ウオノメ)」として知られている病態の形成を計算機上で再現できることを示しました。また,ヒトのウオノメの病理検体データを解析した結果は,数理モデル上の仮定とシミュレーション結果を支持していることがわかりました。このことから数理モデルは,真皮の構造変化を伴う様々な皮膚疾患のシミュレーションへの応用が期待されます。

なお,本研究成果は,2021624日(木)公開のScientific Reports誌にオンライン掲載されました。

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数理モデルの概略と数値計算事例。(a)本研究で構築した数理モデルの模式図。
細胞分裂,細胞分化を起こしつつ,細胞接着による相互作用や生化学反応等を含んだ数理モデルとなっている。(b)数理モデルによって表現される表皮の概略図。(c)数理モデルの計算結果の1事例。適切なパラメータを用いることで表皮構造を維持し続ける結果が得られる。