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アブラムシはライバルと競って子を産むか決めていた!~殺虫剤によらない安全なアブラムシ防除への貢献に期待~(農学研究院 教授 秋元信一)

2021年6月30日

ポイント

●アブラムシが自己・非自己を認識できることを初めて発見。
●他クローンのアブラムシが多くなると産子を抑制,自分の仲間が多くなると産子活動が活発化。
●害虫であるアブラムシの産子を抑えることで,殺虫剤によらない安全な防除への貢献に期待。

概要

北海道大学大学院農学院博士後期課程の李 楊氏(当時),同農学研究院秋元信一教授らの研究グループは,作物の害虫となるアブラムシを用いて,自己・非自己の認識が子の産み方にどのように関わるかを新しい手法を用いて分析し,これまで未解明の問題であった個々のクローンの産子,他者(他クローン)との関係性のメカニズムを明らかにしました。

アブラムシ類は春から秋まで単為生殖で増殖し,その生まれた子は,親と遺伝的に同一のクローンです。植物(葉など)の上では,複数のクローン(他クローン)が同居し,競争状態になることが多いうえに,アブラムシは,色彩や形態が種内で同じなので,これまでクローンを見分けることができませんでした。そこで,本研究では,色彩突然変異を起こし黄色い体色を持つクローンを,同種の緑色クローンと競合させることで,個別のクローンの振る舞いを分析できるようにしました。さらに,飼育方法も改良し,寒天上の切葉でアブラムシを飼育することで,個体数を完全に把握することに成功しました。また,アブラムシは他クローンが同じ葉にいると(黄色1頭+緑1頭を設定),同じクローンの個体同士だけが同じ葉にいる(黄色2頭,あるいは緑2頭を設定)場合より子を生む速度を高め,一方のクローンが個体数で他方を圧倒すると,数の上で不利になったクローンは産子を抑制しました。すなわち,勝ち目のない状況では,アブラムシは無理に子を産まず,その場から逃れることで再起を期す戦略を取ることが明らかになりました。さらに,緑クローンと黄色クローンが同時に産子を行うと,緑が黄色を数の上で圧倒し,黄色クローンは産子を抑えてしまいました。ところが,黄色クローンに23日先に子を産ませるようにすると,今度は黄色が緑を圧倒し,緑クローンが産子を抑制することが明らかになりました。つまり,先に増えた側が,相手の産子を抑制することが示された結果です。アブラムシは,春から秋まで複数の植物を移動しながら単為生殖で増えていきます。この過程で,他者との関係を認識して,状況に応じた巧妙な産子調節を行なっていることがこの研究により明らかになりました。

将来的には,アブラムシに対して,何らかの化学物質を用いて,他のクローンがたくさん存在すると誤解させることができれば,アブラムシの産子を抑えることも可能になると予想されます。

なお,本研究成果は,2021年6月30日(水)公開のProceedings of Royal Society B誌にオンライン掲載されました。

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黄色クローンと緑クローンの競争実験の様子