2021年7月15日
ポイント
●実用半導体光デバイス材料を用いて,スピン発光ダイオード(LED)の室温安定動作を達成。
●LED発光特性と超高速発光分光を併用し,LED動作時の電子スピン輸送ダイナミクスを解明。
●光スピン変換媒体としての量子ドットの高い実用性を実証し,今後の光スピン素子開発を加速。
概要
北海道大学大学院情報科学研究院の樋浦諭志准教授,修士課程の江藤亘平氏らの研究グループは,実用の半導体光デバイス材料であるインジウムガリウムヒ素(InGaAs)量子ドットを用いたスピン発光ダイオード(LED)を開発し,室温安定動作を達成するとともに,デバイス性能を支配する半導体中の電子スピン輸送におけるスピン保存率を定量的に評価できる手法を確立しました。
スピンLEDは,電子スピンによる超低消費電力の情報記憶と,熱損失がない光によるスピン情報の伝送を実現する光電情報インターフェースであり,次世代の省エネルギー情報基盤を構築するためのコアデバイスです。古くは1990年代よりスピンLEDの開発が行われてきたものの,安定した室温動作は未だ達成されておらず,その明確な要因については明らかになっていませんでした。
今回研究グループは,実用の半導体光デバイス材料であり,強い量子効果によりスピン情報を発光中に長時間保持できるInGaAs量子ドットを用いたスピンLEDを開発し,室温動作を達成しました。そして,電流注入によるLED発光特性と超高速発光分光を併用した独自手法を考案し,室温でのスピンLED特性が半導体バリアの電子スピン保存率に強く依存することを定量的に明らかにしました。
本研究成果は,スピンLEDの光電変換材料としての量子ドットの高い実用性を実証するとともに,デバイス性能を支配する半導体中の電子スピン輸送特性を定量的に評価できる新たな手法を確立し,超低消費電力のスピン情報光インターコネクションの実現に向けたスピンLED開発が加速することが期待されます。
なお,本研究成果は,2021年7月14日(水)公開の米国物理学会専門誌Physical Review Applied誌にオンライン掲載されました。
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