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学生モニタリング調査によるヒグマ個体群動態の解明~40年間の長期変動と春グマ駆除制度の影響が明らかになる~(農学研究院 教授 中村太士)

2021年8月27日
北海道大学
国立環境研究所

ポイント

●北大の学生サークル「クマ研」がモニタリング調査した40年分のヒグマの痕跡データを解析。
●駆除奨励制度によるヒグマ個体群の衰退と制度廃止後の回復過程が判明。
●学生によるモニタリング調査が野生動物の保護管理に貢献できることを示唆。

概要

北海道大学大学院農学研究院の中村太士教授,国立環境研究所らの研究グループは,北海道大学のヒグマの生態を調査する学生サークル「北大ヒグマ研究グループ」(以下北大クマ研)により蓄積されてきた,北海道北部地域のヒグマの40年分のモニタリングデータを時系列解析し,春グマ駆除制度による個体群の衰退及び制度廃止後の回復過程を明らかにしました。本成果は,学生主体の長期モニタリングによって政策転換が大型哺乳類の個体群におよぼす影響を明らかにした,国際的にも極めて稀なものです。

クマやトラなどの大型食肉目に属する哺乳類の多くの種は,狩猟や生息地減少といった人間活動の影響を受けて個体数が減少しています。長期間の個体群モニタリングは,寿命が長い大型食肉目に対する人間活動の影響を明らかにするために重要です。近年,市民が主体となった大型食肉目の個体群モニタリングの有効性が期待されはじめていますが,これを実証した研究はありませんでした。

北大クマ研は北海道大学・天塩研究林において,1975年からヒグマ個体群の動向を明らかにするために,ヒグマの痕跡(糞や足跡)を調べてきました。北海道では1969年から1990年にかけてヒグマの積極的な駆除を目指す「春グマ駆除制度」が施行されました。今回の研究では,1975年から2015年にかけて北大クマ研が記録したデータを解析し,春グマ駆除制度がヒグマ個体群の動態に与える影響を調べました。

その結果,ヒグマの個体数の指標である痕跡発見率が春グマ駆除期間中(1975年~1990年)において減少した一方で,春グマ駆除が廃止された後(1991年~2015年)回復したことを明らかにしました。これまで北海道においては,ヒグマの分布や個体数を把握する際にハンター等からの情報・試料提供が用いられてきましたが,こうしたモニタリングを担う人たちの高齢化が進み,人口も減少しています。本研究では,そうした状況下において大型食肉目の保護管理を円滑に進めていく上で,学生も市民科学者として今後重要な役割を果たしていく可能性があることを示しました。

なお,論文執筆者のうち中村太士教授以外は全員が北大クマ研OBです。本研究成果は,2021713日(火)公開のConservation Science and Practice誌に掲載されました。

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北大クマ研のヒグマ痕跡調査の様子。(a)2006年における調査風景 (b)1978年における調査風景,痕跡を発見した際の記録方法を確認・検討している (c)ヒグマの足跡 (d)河川沿いの調査ルート