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イネ科雑草の葉や茎が放射状に広がる理由を解明~植物が重力に逆らうことで地面を這う仕組み~(農学研究院 助教 小出陽平)

2021年8月20日

ポイント

●イネの野生種・栽培種の枝(分げつ)の三次元的な動きを表す数理モデルを構築。
●重力に逆らって育つ性質(重力屈性)と稈の傾きにより,分げつが地面を這うことを解明。
●「植物が形を変えることで環境に適応する仕組み」の理解が深まることに期待。

概要

北海道大学大学院農学院修士課程の徳山芳樹氏,同大学院農学研究院の小出陽平助教らの研究グループは,数理モデルを用いて,イネ科単子葉植物の枝(分げつ)が放射状に配置するメカニズムを解明しました。

日本人が主食とする栽培イネは直立した形をしており,水田での密植や収穫の省力化に役立っています。一方,アジアに自生する野生イネは,稈(かん)が倒れて放射状に広がった形をしており,この形は自然条件での受光能力の向上に役立っていると考えられています。イネは茎の周りに左右交互に葉がつく「二列互生」植物であり,葉と同じく分げつも左右交互に枝分かれします。そのため,栽培イネは稈が一直線に並んだ扇のような形をしています。一方,野生イネは二列互生であるにも関わらず,その形は地面に這うよう放射状に広がります。しかしながら、どのようなメカニズムにより二列互生植物から放射状の形が生み出されるのかについては全くわかっていませんでした。

本研究では,「分げつの枝分かれ後の動き」に着目し,数理モデルを用いてそのメカニズムを解明しました。野生・栽培イネの三次元的な動きの計測と数理モデルのシミュレーションにより,主稈(中心にある稈)が倒れていれば,重力に逆らう「上向きの動き」が,放射状の形成に必要な「水平方向の動き」を生み出すことがわかりました。また,イネの稈が倒れる原因としてすでに知られている遺伝子たちが,放射状の形成にどのように関わっているかがわかりました。

この放射状配置は,イネだけでなく,コムギやヒエなどの二列互生イネ科植物に共通した特徴です。つまり,これらの植物は,重力を利用することで,地面を這うような放射状の形を生み出していると考えられます。本研究で得られた知見により,植物が環境に応じて形を変化させ適応する仕組みの理解が深まることが期待されます。

なお,本研究成果は,2021年715日(木)公開のin silico Plants誌に掲載されました。

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(左)野生イネの稈が放射状に這うのに対し,栽培イネの稈は直立し,扇状に開く。
(右)重力屈性(赤)と主稈から離れる動き(青)が組み合わさることで,放射状を作る動き(黒,水平方向の動きを含む)が生み出される。