2021年8月24日
ポイント
●癌光治療用のミトコンドリア標的型ナノカプセルの開発に成功。
●担癌モデルマウスを用いた治療効果の検証実験において,単回投与で癌細胞の成長を著しく抑制。
●ミトコンドリアを狙った薬剤耐性癌の新しい治療法の開発に期待。
概要
北海道大学大学院薬学研究院の山田勇磨准教授,原島秀吉教授と電子科学研究所の高野勇太准教授らの研究グループは,光増感分子(Photosensitizer,PS)を搭載したミトコンドリア標的型ナノカプセルの構築に成功し,ヒト由来の癌を担持するマウスを用いた検証実験を行い,「ミトコンドリアを狙い撃ちする癌光治療戦略」の有用性を示すことに成功しました。
癌光治療は,患部切除を行わずに選択部位の癌組織を死滅させるため,患者の身体的負担が少ない治療法として期待されています。一方で,現状の光治療法では,殺しきれなかった癌細胞が増殖することによる耐性癌発生リスクがあり,それを解決する治療法の開発が望まれています。そこで研究グループは,癌細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアを破壊する新たな癌光治療の検証を試みました。光照射によってミトコンドリア内で活性酸素発生を誘導するPS(rTPA,特願2018-172698)を,ミトコンドリア型ナノカプセル(MITO-Porter,特許第5067733号)を用い,ヒト舌癌細胞(SAS cell)のミトコンドリアへ送達しました。SAS cellを皮下移植した担癌モデルマウスを作成・評価した結果,MITO-Porter(rTPA)投与・光照射群において,癌の増殖を著しく抑制する治療効果を観察しました。
本研究で採用する「ミトコンドリアを狙い撃ちする癌治療戦略」は既存薬の抗癌作用機序と異なり,薬剤耐性癌の治療にも有用であると期待されます。また,癌細胞にピンポイントに抗癌剤を運ぶナノカプセルは正常細胞への侵襲性を抑えることが期待されるため,「効果がでているのに副作用で治療を断念」などの問題点の解決にもつながる可能性があります。さらに,多彩な機能を有するミトコンドリアを標的とした創薬開発の医療用ナノカプセルの基盤技術としても貢献できると期待されます。
本研究成果は,2021年8月21日(土)公開のNanoscale Advances誌に掲載されました。
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