2021年9月14日
北海道大学
日本医療研究開発機構
ポイント
●北大創薬センターの核酸化合物ライブラリーを用いたスクリーニングと最適化研究を実施。
●新型コロナウイルスを含む複数のウイルス種に対して強力な抗ウイルス活性を示すHMTUを同定。
●コロナウイルスやフラビウイルス等に対する,広域的抗ウイルス治療薬の開発に期待。
概要
北海道大学大学院薬学研究院の前仲勝実教授,松田彰名誉教授,同大学院薬学研究院博士課程の上村健太朗氏,同人獣共通感染症国際共同研究所の澤洋文教授と佐藤彰彦客員教授らの研究グループは,5-ヒドロキシメチルツベルシジン(HMTU)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して強力な抗ウイルス活性を有することを発見しました。
本研究で着目したSARS-CoV-2やデングウイルス(DENV)については,これまでに多くのワクチン及び治療薬の開発研究が遂行されてきたにもかかわらず,未だ完全に有効な治療法は確立されていません。そこで研究グループは,新たな治療薬候補の探索を目的として,同大学院薬学研究院創薬科学研究教育センターの化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを実施し,抗ウイルス活性を有する核酸代謝拮抗薬の同定を試みました。その結果,HMTUがSARS-CoV-2やDENVを含む,複数のウイルス種に対して強力な抗ウイルス活性を有することを見出しました。
続いて,本化合物の作用メカニズムについて解析した結果,本化合物はウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)によりRNA鎖に取り込まれ,RdRpにより媒介されるウイルスRNAの合成伸長を阻害することを見出しました。加えて,ウイルス感染実験の結果から,本化合物はウイルス感染過程の後期におけるウイルスRNAの複製を阻害することで,ウイルスの増殖を強力に抑制することを見出しました。
本研究において,本化合物が新型コロナウイルスをはじめとするヒトコロナウイルスや,ヒトに重篤な疾患を引き起こすDENV,ジカウイルス(ZIKV),黄熱ウイルス(YFV),日本脳炎ウイルス(JEV),ウエストナイルウイルス(WNV)等,幅広いウイルス種に対して強力な抗ウイルス活性を有することを見出しました。これらのウイルスに対する完全に有効かつ安全な治療薬は存在しないため,本研究成果によって,新たな治療薬の開発が進むことが期待されます。
なお,本研究成果は,2021年9月10日(金)公開のiScience誌にオンライン先行掲載されました。
詳細はこちら