2021年9月27日
ポイント
●甘露を搾取されるだけとされていたアブラムシが,随伴アリを利己的に操作していたことが判明。
●甘露中のドーパミンがアリを攻撃的にし,アブラムシへの保護が強化されることを解明。
●自然選択による利己的な進化が,生物多様性の維持に果たす役割の解明へ期待。
概要
北海道大学大学院農学院修士課程の工藤達実氏,同大学院農学研究院の長谷川英祐准教授らの研究グループは,ヨモギに付随するアリ随伴型のヨモギヒゲナガアブラムシが排泄する糖を含む液体(甘露)には,脳内アミンの1種であるドーパミンが含まれており,甘露を摂取した随伴アリの攻撃性が上がることを解明しました。
自然界に見られる膨大な生物多様性がどのように維持されているのかを解明することは,生態学,進化生物学の最大の課題の一つです。現在,唯一の適応進化の説明理論である自然選択説からは,より利己的な形質が進化する事が予測されていました。本研究から,アブラムシが自らを外敵から守ってもらうために,アリに化学物質が入った甘露を与えて行動を操作し,攻撃的にさせた結果,アブラムシとアリの双方にとって,共生関係からそれぞれ利益を得る,いわば"win-win"の関係を進化させたと考えられます。
かつて,アブラムシは一方的に甘露を吸われるだけのアリの家畜のような存在だと考えられてきました。しかし,本研究では,アブラムシも自己利益を最大化するためにアリの随伴を主体的に利用している事が明らかになりました。よって,競争の観点からのみ理解が試みられてきた生物多様性の維持機構に関して,自然選択による利己的な進化を極めた結果,双方にとって"win-win"の関係が進化し,お互いの利益のために生物多様性が必要とされ,維持されるという新しい観点を導きだしました。
本研究の成果は,自然選択が生物多様性の維持に果たす役割の理解をより一層深めるための重要な成果といえます。
なお,本研究成果は,2021年9月17日(金)公開のScientific Reports誌にオンライン掲載されました。
詳細はこちら