2021年10月5日
ポイント
●対称な金ナノ長方形に円偏光照射によって発現する光の空間分布を光電子顕微鏡により観測。
●対称ナノ構造に誘導されるキラルな光の空間分布が,プラズモンモード間の干渉によることを解明。
●円偏光照射により光化学反応を空間選択的に誘起する新たな光反応場創製への応用に期待。
概要
北海道大学電子科学研究所の押切友也特任准教授,笹木敬司教授,三澤弘明特任教授らの研究グループは,対称性を有するナノ構造に発現するキラルな光学現象の原理を明らかにしました。
局在表面プラズモン共鳴を示す金のナノ長方形構造に円偏光を照射した際にナノ空間に閉じ込められる光の空間分布を,光電子顕微鏡を用いて観測しました(ナノ=nmは1mの10億分の1)。長方形のような対称な構造でも,円偏光を照射することで閉じ込められる光の空間分布は平面内でキラリティー(その構造の鏡像と重ね合わせることのできない性質)を示すことが最近の研究によって知られていましたが,今回,最先端の光電子顕微鏡を用いたナノ構造上の光の精密な空間分布の分析と,古典的な力学モデルを組み合わせることによって,その要因がプラズモン同士の「干渉」に由来することを初めて明らかにしました。
生命を構成するアミノ酸や糖は片方の鏡像異性体しかなく,これは生命の起源に関わる大きな謎とされています。今回,構造自身がキラリティーを持たなくても,光によってナノ空間にキラリティーを発現可能であることをモデル化し,系統的に示すことに成功したことから,本成果は生命の起源に迫るだけでなく,入射する光によってナノ構造上に発現する光を空間的に制御可能な新たな光反応場への応用が期待されます。
なお,本研究成果は, 2021年9月28日(火)公開のACS Nano誌にオンライン掲載されました。
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左右円偏光を照射したときに,金ナノ長方形構造に閉じ込められる光の空間分布。 偏光方向によってナノ空間の光の分布が反転しており,互いに鏡像関係にあることがわかる。