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新しいウシ受精卵培養系の開発による細胞分化機構の解明~ウシの基本設計の解明から畜産学の発展に期待~(農学研究院 准教授 川原 学)

2021年10月14日

ポイント

●従来培養法では不可能だった受精後10日目以降へのウシ受精卵培養系の構築に成功
●ウシ受精卵における細胞分化機構がマウスなど他の哺乳類と異なることが判明。
●受精卵移植により個体作出能力が確認されたことで,新たなウシ改良増殖法開発に寄与。

概要

北海道大学大学院農学研究院の川原 学准教授と同大学院農学院博士課程の秋沢宏紀(現・マサチューセッツ大学博士研究員)らの研究グループは,同大学院獣医学研究院及び東京農業大学の研究グループと共同で,新規ウシ胚培養系を開発,これまで培養不可能だった受精後10日目以降の発生ステージまで胚を効率よく発生させることに成功し,さらに受精後10日まで体外培養したウシ胚から正常に個体発生することを初めて証明しました。

本研究では,アガロースゲルを培養基質として用いた新規ウシ胚培養系を開発し,ウシ胚盤胞期以降の胚生存性が従来法に比べて平均生存日数が2.5日延長することを見出しました。この「ゲル培養」により作出した胚では,将来胎盤となる栄養外胚葉に特有の遺伝子発現や形態的特徴が体外で再現されると同時に,従来法では判然としなかった内部細胞塊からの胚盤葉上層と原始内胚葉への分化が明瞭に観察され, 体内同様の発生過程を経ていることが確かめられました。さらに,ゲル培養胚の発生能力を調べるために,本学北方生物圏フィールド科学センターで飼育されている雌ウシを受胚牛として受精卵移植したところ,着床し妊娠が継続され個体発生能力が確かめられました。体外環境で10日間培養したウシ胚からの個体作出は世界で初めての事例となります。

また,本培養法によって,これまで不明瞭だったウシ胚の発生機構が調査できるようになりました。さらに,本研究によって従来よりも長く体外培養しても受精卵移植により個体作出できることが明らかになったため,発育能力をより厳密に見極められるようになりました。そのため,初期胚の時点で発生停止してしまう胚を効率的に排除して動物生産を効率化できる可能性が示されました。加えて,従来よりも細胞増殖させてから移植できるようになったため, 受精卵での遺伝子検査に対応した新しいウシ改良増殖システムの展開に繋がることが期待されます。

なお,本研究成果は,2021927日(月)公開の米国科学誌The FASEB Journalにオンライン公開されました。

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新規培養法により得られたウシ胚