新着情報

ホーム > プレスリリース(研究発表) > 白亜紀にはカマキリに似た感覚系をもつゴキブリがいた!〜薄片作製技術で明らかになった琥珀内昆虫のリアルな生態〜(理学研究院 准教授 伊庭靖弘)

白亜紀にはカマキリに似た感覚系をもつゴキブリがいた!〜薄片作製技術で明らかになった琥珀内昆虫のリアルな生態〜(理学研究院 准教授 伊庭靖弘)

2021年10月18日

北海道大学
福岡大学

ポイント

●1億年前の琥珀に保存された化石ゴキブリの微小感覚器官を詳細に解析。
●複眼・触角の特徴から現生カマキリに類似した感覚システム・生態を復元。
●理学研究院薄片技術室が誇る高い技術力により微細構造まで見える琥珀プレパラートを作製。

概要

北海道大学大学院理学院修士課程の谷口諒氏,同大学大学院理学研究院の伊庭靖弘准教授,同大学電子科学研究所の西野浩史助教,同大学総合博物館の山本周平博士,福岡大学理学部地球圏科学科の渡邉英博助教は,約1億年前(白亜紀中ごろ)のミャンマーに生息していたゴキブリの仲間Huablattula hui(フアブラッツラ・フイ)の微小な感覚器官を詳細に解析し,感覚システムや生態の高精度な復元を行いました。

昆虫の感覚器官は微小ながらも非常に優れた情報処理能力を有しており,全動物種の70%を占める昆虫の大繁栄を支えてきた主要因の一つであると考えられます。そのため,昆虫を対象とした進化古生物学的研究を展開する上で,彼らの感覚器官は強力なツールになると期待できます。しかしながら,昆虫感覚器官はその微小さ・脆さゆえに,ほとんど化石として保存されないこと,分析手法の分解能不足により詳細に可視化できないことなどの理由から,これまでの研究ではその重要性すら見過ごされてきました。

本研究では,従来手法を用いた複眼の解析に加えて,北海道大学大学院理学研究院薄片技術室の中村晃輔技術専門職員と共同で開発した新規の破壊的手法を適用した触角の解析から,本種が多くの現生ゴキブリに比べて視覚機能に優れており,明るく開けた生息環境に適応していたことが明らかになりました。また,触角上の性フェロモン受容器の特徴から,現生のカマキリに類似した異性間コミュニケーションをとっていた可能性も示唆されました。これらの結果は,白亜紀以前のゴキブリが現在よりも多様な生態的地位を占めていた可能性が高いこと,微小感覚器官の解析が化石昆虫の詳細な生活スタイルの復元に極めて有効であることを示しています。

なお,本研究成果は2021年9月28日(火)公開のThe Science of Nature誌にオンライン公開されました。

詳細はこちら


本研究で使用した琥珀に保存された化石ゴキブリ
Huablattula hui(フアブラッツラ・フイ)