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夏に最も冷える,パタゴニアの湖~氷河が流れ込む湖で水温の季節変化を世界で初めて解明~(低温科学研究所 教授 杉山 慎,助教 箕輪昌紘)

2021年11月4日

ポイント

●氷河が流入する南米パタゴニアの湖で20ヶ月にわたる長期観測に成功。
●夏になると氷河の融け水が流入し,湖の水温が一年で最も低くなることを発見。
湖に流入する氷河の融解メカニズムと,氷河が湖の環境に与える影響の理解に貢献。

概要

北海道大学低温科学研究所の杉山 慎教授,箕輪昌紘助教,北極域研究センターの深町 康教授らの研究グループは,南米パタゴニアの氷河が流入する湖で20ヶ月にわたる長期観測に成功し,水温と流速の季節変化を世界で初めて明らかにしました。

夏になると氷河が盛んに融解して,冷たい融け水が湖に流れ込む様子が観測されました。この水は土砂を含んで密度が高いため,湖の底深くに沈み込んで蓄積されます。その結果,湖の深い部分では真夏に水温が最も低くなり(約2℃),逆に表面近くでは年間最高水温(約5℃)が記録されました。湖水の流速,気温・風速のデータからも,夏に湖底付近が氷河の融け水で冷やされる一方で,大気の熱と日射で暖まった水が強い風で表層付近を循環する様子が確認されました。

本研究で明らかになった水温とその季節変化は,氷河の変動メカニズムを考える上で重要です。例えば湖の中で上記の温度分布が生まれると,水温が高い表層付近で氷がよく融けますが,水温が低い中層以深では氷が融けないので氷河が水中に突き出てきます。すると水に浸かった氷に浮力が働き,大規模な氷の崩壊が起きると考えられます。また,氷河が激しく融解すると融け水が湖を冷やすので,氷河の末端部では逆に氷の融解が抑制される効果も予想されます。氷河湖の季節的な水温変化は,過去に報告されたことがなく,湖の生態系を考える上でも重要な知見になると考えられます。

本研究成果は,2021年11月2日(火)にNature Communications誌にオンライン掲載されました。本研究は,科研費基盤研究(A)(20H00186)の助成を受けて実施されました。

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南米パタゴニアのグレイ氷河。氷河前の湖で観測を行った。