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狙ったナノ空間に光を閉じ込める人工構造の開発に成功~トポロジーによる新しい光デバイスの開発に期待!~(電子科学研究所 教授 三澤弘明)

2021年11月4日

ポイント

金ナノ粒子を並べた人工構造における光の伝播と局在を時間・空間分解光電子顕微鏡により観測。
●人工構造の端(エッジ)に光が集まるトポロジカルエッジ状態の発現を確認し,その生成機構を解明。
●トポロジカルエッジ状態により光の伝播や局在化を自在に制御可能な光デバイスへの応用に期待。

概要

北海道大学電子科学研究所の三澤弘明特任教授及び同創成研究機構の石 旭准教授らは,中国北京大学と共同で,金ナノ粒子のペアを一列に規則正しく配列した人工構造(バルク)の端(エッジ)にペアではない単一金ナノ粒子を配置して構造全体に光照射すると,エッジの単一粒子に近接場とよばれる光が局在化するトポロジカルエッジ状態が発現することを初めて明らかにしました。また,エッジ状態が消滅する位相緩和時間が,バルクの金ナノ粒子ペアの個数に依存して長くなり,ある個数以上で飽和することを見出し,エッジ状態がバルク状態とのエネルギー振動を経て形成することを検証しました。

今回,金の人工ナノ構造で観測された光のトポロジカルエッジ状態は,2016年のノーベル物理学賞の受賞で注目された「トポロジカル絶縁体」とも関連が深く,物質内部は電気を流すことができない絶縁体でありながら,エッジ(表面や端)では電気を流せる金属と同じ性質を持つというトポロジカル絶縁体のとても不思議な特性を利用しています。この特性を金の人工ナノ構造に展開し,エッジに近接場が局在化する過程を1フェムト(100兆分の1)秒の時間分解能と数nm1nm1億分の1m)の空間分解能という極めて高い精度で可視化するとともに,シミュレーションによって局在化のメカニズムの検証にも成功しました。

光のトポロジー効果は,光の散乱損失や構造の乱れに耐性のある堅牢な光学構造を提供するため,光情報伝送や量子コンピュータなどの新しい光デバイスを実現するために有用と考えられています。現在,金のナノ構造を用いた光トポロジカルエッジ状態の研究は世界中で盛んに行われていますが,極めて早い時間で生成・消滅するため,時間領域における研究はほとんど進んでいませんでした。今回の時間領域の研究により,どのような人工構造を用いれば,近接場を効率良く狙ったナノ空間に速く局在化させるかなどの理解が深まり,新しい光デバイスの構築に繋がるものと期待されます。

なお,本研究成果は,20211022日(金)公開のNano Letters誌にオンライン掲載されました。

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a.トポロジカルエッジ状態を示す金ナノ粒子からなる人工構造の電子顕微鏡顕像。
b.左端の単一金ナノ粒子に近接場が局在化したトポロジカルエッジ状態の光電子顕微鏡像。
c.横一列に並んだ金ナノペア全体に近接場が非局在化したバルク状態の光電子顕微鏡像。