2021年11月16日
ポイント
●新型コロナウイルスの細胞障害性T細胞からの逃避機構を解明。
●ウイルス原因遺伝子の同定に成功。
●免疫応答を利用した新規治療法に期待。
概要
北海道大学大学院医学研究院の小林弘一教授らの研究グループは，新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が免疫系から逃れ，感染を持続させるメカニズムの解明に成功しました。
人間の免疫系は複数の防御システムからなり，ウイルス感染から身を守っています。その中でも，ウイルスを体から排除するために必要な免疫細胞を細胞障害性T細胞と言います。細胞障害性T細胞は，ウイルス抗原を見つけ出し，ウイルスに感染した細胞を突き止め，破壊することで，ウイルスの増殖を防ぐことができます。ウイルス抗原が免疫細胞に見つけ出せる状態にするにはMHCクラスIという分子が必要です。研究グループは，SARS-CoV-2感染者の肺や喉の細胞では，感染防御に必要なMHCクラスIの量が低いことを発見しました。さらに，MHCクラスIの量を増やすために必要な免疫系のNLRC5というタンパク質の量と機能が，SARS-CoV-2によって抑えられていることを見出しました。また，同グループは，SARS-CoV-2のどの遺伝子がこの免疫抑制作用を持っているのか，そしてそのメカニズムについて解明することに成功しました。本研究によって何故，SARS-CoV-2が免疫系から逃れて一定期間ヒトの体内に留まり，増殖し，他人に感染できるのかを説明することができます。SARS-CoV-2の特定の遺伝子による免疫抑制作用が解明されたことから，ウイルス遺伝子を標的とした新しい治療法の開発が期待されます。
なお，本研究成果は，2021年11月15日（月）公開のNature Communications誌に掲載されました。
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SARS-CoV-2がヒト気道上皮に感染する際のイメージ図
気道上皮細胞表面のレセプター(ACE2)を利用して細胞内に侵入したSARS-CoV-2は細胞自身に備わっている防御機構（自然免疫）を突破し，さらには細胞障害性T細胞によって感染細胞が破壊，除去されてしまうことを妨害し，増殖を続ける。
