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成体脳におけるシナプス維持機構の解明~神経障害時における回路再編機構解明への貢献に期待~(保健科学研究院 准教授 宮﨑太輔)

2021年11月16日

ポイント

●神経細胞の自発消失を誘導するマウスの作成に成功。
●神経終末消失時におけるシナプス後部の構造変化様式を解明。
●遺伝子導入により人工的にシナプス装置を誘導することに成功。

概要

北海道大学大学院保健科学研究院の宮﨑太輔准教授らの研究グループは,同大大学院医学研究院の渡辺雅彦教授,イェール大学医学部神経科学教室の富田 進教授らとの共同研究により,特定の神経細胞を選択的に自発消失させるマウスの作成に成功しました。

神経細胞同士はシナプスと呼ばれる構造で結合しており,シナプス前終末から放出された神経伝達物質が,シナプス後部の受容体に結合することで化学的な信号伝達が行われます。一般的に,神経伝達物質と受容体の神経化学的特性には11の対応が成り立ち,細胞を興奮させる作用をもつグルタミン酸が放出されるシナプス後部にはグルタミン酸受容体が,細胞の活動を抑制させるGABAγ-アミノ酪酸)が放出されるシナプス後部にはGABA受容体が,それぞれ集積しています。

本研究から,シナプス前終末の消失に伴うシナプス後部の構造変化は,神経伝達物質の種類により異なることが判明しました。

グルタミン酸を放出する細胞を消失させると,入力を受けていたシナプス後部の構造は維持され,グルタミン酸受容体の集積と伝達機能の維持が観察されました。一方GABAを放出する細胞を消失させると,GABA受容体の集積が消失しました。最後に抑制性シナプス接着分子ニューレキシンを興奮性シナプス前終末に発現させると,興奮性シナプス後部にGABA受容体の集積が誘導されることが判明しました。以上の知見は,発達期シナプス形成過程では,GABA受容体は軸索終末依存的に集積誘導され,グルタミン酸受容体は軸索終末とは独立して集積する可能性を示唆しています。さらにこの成果は神経障害など軸索損傷が起きた際,シナプス後部がどのように構造変化し神経回路が再編されるのかという研究に発展することが期待されます。

なお,本研究成果は,2021年10月18日(月)公開のeLife誌にオンライン掲載されました。

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小脳の神経回路
小脳にはグルタミン酸を放出する顆粒細胞,GABAを放出するバスケット細胞,プルキンエ細胞が存在する。これらの神経細胞を選択的に除去すると,プルキンエ細胞やバスケット細胞で興奮性前終末の消失が,小脳核やプルキンエ細胞で抑制性前終末の消失が観察された。