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管理が行き届いた"良い農場"の経営者ほど抑うつ症状リスクが増加~経営要因の理解で農業従事者のメンタルヘルス向上への貢献に期待~(農学研究院 研究員 加藤博美)

2021年12月1日

北海道大学
日本赤十字看護大学

ポイント

●農業従事者のメンタルヘルスの悪化は,農業生産の持続可能性に大きな影響。
●高い経済効率,十分な飼料供給,高乳質生産の3つが抑うつ度を高める要因。
●農業者福祉向上を軸とした持続的生産システム構築の提案に貢献。

概要

北海道大学大学院農学研究院の加藤博美研究員,小林国之准教授,同大学院保健科学研究院の佐藤三穂講師,日本大学生物資源科学部の小野 洋教授,日本赤十字看護大学の野口真貴子教授らの研究グループは,酪農業を営む経営者の精神的健康に影響を及ぼす経営要因を明らかにしました。

農業を営む「人」の健康のあり様は農業の持続性に極めて重要であり,持続可能な農業を促進するためには,農業従事者のメンタルヘルスを評価し,サポートすることが重要です。特に,過重労働である酪農業を営む農業従事者の精神的健康状態は,他の産業よりも悪いと報告されています。

そこで本研究では,酪農経営における経営要因のメンタルヘルスへの影響を評価し,2つの関係を定量的な調査により検討しました。研究対象者は,北海道の酪農場の経営者81名(男性80名,女性1名)です。従事者の精神的健康状態は,CES-Dで評価しました。酪農業の経営要因として,18項目を取り上げ,特に重要な9つの経営要因を解析対象として,主成分分析及び二項ロジスティクス回帰分析を行いました。結果として,経済効率(農業所得率)が高く,十分に飼料を供給し,乳質が高い(リニアスコアが低い)農家ほど抑うつであることが明らかとなりました。つまり「管理の行き届いた農場システムほど経営者の精神的健康状態が悪い」ということです。

また,酪農経営における最も基本的な経営要因である経済性,飼料,乳質は,それぞれが相互に関連し,影響し合っており,単独で改善することは困難です。したがって,本研究では"要求の同時性"も重要なポイントとなります。これは,適正な財務状態,牛の飼養環境,乳質の維持が同時に行われることで,農場経営者の心理的ストレスレベルが高くなることが背景にあります。管理の行き届いた農場システムを運営するために適切な技術を適用するには,農場従事者と経営者の多大な努力と犠牲が必要であり,それがストレスの原因となり,増大させる可能性があることが推察されます。

本研究は,観察研究に基づいているため,残念ながら,因果関係に関する結論を完全に提示することはできておらず,北海道に在住している農家のみを対象にしているため,日本全体のこととして当てはめることはできません。しかし,農業者福祉を中心とした本研究は,日本農業の将来を考える上で重要な示唆を与えるものとなっています。

なお,本研究成果は,2021119日(火)公開のJournal of Dairy Science誌に掲載されました。

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