2021年12月17日
北海道大学
海洋研究開発機構
ポイント
●温室効果ガスが増加しているのに対して,夏季グリーンランドで温暖化が減速している謎を調査。
●熱帯の大気海洋変動が夏季グリーンランド温暖化減速の原因であることを解明。
●グリーンランド氷床の融解や北極海の海氷減少の将来予測精度向上への貢献に期待。
概要
北海道大学大学院地球環境科学研究院の松村伸治学術研究員らのグループは,近年,夏季のグリーンランドで温暖化が減速しているメカニズムを解明しました。グリーンランドの氷床は,温室効果ガスの増加に伴った温暖化によって長期的に見ると融解が進んでいます。ところが,2012年にグリーンランドの気温上昇が過去最高に達してから,最近10年間では低温傾向で氷床融解が減速しつつあると報告されており,その原因はよくわかっていませんでした。
研究グループは大気海洋の観測データの解析を行い,熱帯太平洋からグリーンランドへのテレコネクションが温暖化減速の要因であることを見出しました。気象学的に夏季は熱帯上空が東風であるため,熱帯から北極域へのテレコネクションは発達できません。しかし,2000年代以降,赤道太平洋で発生する従来型のエルニーニョ/ラニーニャ現象よりも亜熱帯太平洋で発生するエルニーニョ/ラニーニャもどき現象が頻発することで,海面水温と降水帯の変化が亜熱帯海域まで北上して東風領域を脱するため,テレコネクションを生み出すことが可能となりました。実際に簡易大気モデルで降水帯の北上を反映させると,グリーンランドへのテレコネクションが再現できました。最近10年間ではエルニーニョもどきが頻発しており,亜熱帯からのテレコネクションがグリーンランド上空で雲を発生しやすい低気圧性循環を強め地上に低温をもたらしています。この低気圧性循環はさらに高緯度の北極海上空にまで及んでおり,最近の海氷減少の減速にも影響している可能性があります。
今後エルニーニョと反対のラニーニャもどきが頻発するとグリーンランドに高温をもたらし,人為起源による温暖化との相乗効果でこれまで以上に温暖化と氷床融解が加速すると予期されます。
なお本研究成果は,2021年12月16日(木)午後7時公開のCommunications Earth & Environment誌に掲載されました。
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グリーンランド氷床頂上の(a)Summit(72°N,38°W,海抜3216m)と西海岸沿いの(b)Upernavik(72°N,56°W)における夏季(6-8月)平均気温の時系列。平年からの偏差を示し,赤線は5年移動平均を表す。