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成人T細胞白血病/リンパ腫の新規治療開発に成功~パルボシクリブとエベロリムスの併用投与による新たな治療戦略に期待~(医学研究院 助教 中川雅夫)

2021年12月20日

ポイント

●長期予後不良の悪性リンパ腫「成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)」に対する新規治療開発に成功。
●CRISPR-Cas9スクリーニングによってATLLの必須遺伝子を同定。
●他の悪性腫瘍に対する応用にも期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院血液内科学教室の石尾 崇研究員,中川雅夫助教らの研究グループは,予後不良の悪性リンパ腫「成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)」の新規治療開発に成功しました。

ATLLはhuman T-cell leukemia virus type 1HTLV-1)感染者の一部に生じる悪性リンパ腫で,HTLV-1CD4陽性T細胞へ感染しキャリアとして50年程度の長い潜伏期間を経過した後に発症します。既存の化学療法に対する反応性が乏しい予後不良の疾患で,ATLLの増殖及び生存に重要な役割を担っている遺伝子を標的とした新規治療方法の開発が求められています。

今回の研究では,新規ゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9を用いてATLL細胞株内の約20,000種類の遺伝子を網羅的にノックアウトさせ,どの遺伝子が最もATLLの増殖及び生存に重要な役割を担っているのかを機能的にスクリーニングしました。これにより,細胞周期機構に関わるCyclin dependent kinase 6CDK6)と細胞増殖に関わるmTORC1経路がATLLの増殖と生存に必須の遺伝子であることを見出しました。

この結果を踏まえて,研究グループはCDK4/6阻害薬(パルボシクリブ)がATLLの細胞周期進行を抑制し,アポトーシスを伴う細胞毒性をもたらすことを細胞株及びマウスモデルを用いて示しました。さらに,比較的CDK4/6阻害薬への反応性が弱いTP53異常を有するATLLに対してもmTORC1阻害薬(エベロリムス)を併用することで相乗効果による細胞毒性をもたらすことも突き止めました。

本研究では,ATLLに対してCRISPR-Cas9スクリーニングを用いた結果,ATLLの新規治療標的となるCDK6mTORC1経路を同定することに成功しました。パルボシクリブとエベロリムスの併用投与は他の悪性腫瘍にも奏功をもたらす可能性があり,今後の臨床応用が期待されます。

なお,本研究成果は,20211124日(水)公開のBlood誌にオンライン掲載されました。

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