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アブラムシを引き寄せ,翅を生やして自らを運ばせるRNAがいた!~植物ウイルスに寄生するY-サテライトRNA分子の驚くべき生き残り戦略の解明~(農学研究院 教授 増田 税)

2021年12月7日

ポイント

●キュウリモザイクウイルス(CMV)に寄生したY-satの巧みな生き残り戦略を解明。
●Y-satがアブラムシをタバコに誘引し,さらにはねを形成させていた分子メカニズムを発見。
●生物の細胞生理の制御に重要なノンコーディングRNAの機能の理解に貢献。

概要

北海道大学大学院農学院博士後期課程(研究当時)のウィクム ハーシャナ ジャヤシン氏及び同大学院農学研究院の増田 税教授らの研究グループは植物ウイルスに寄生する短いRNA分子(サテライトRNA)が葉の色を変えて,アブラムシを誘引し,アブラムシの生理機能に直接作用することで翅を生やし,自らを遠くに拡散させる操作をしていたという,驚くべき生き残り戦略を解明しました。

キュウリモザイクウイルス(CMV)は,サテライトRNAsatRNA)と呼ばれる短いRNA分子に寄生されていることがあります。CMVはアブラムシによって周囲に伝搬されるウイルスです。Y-サテライトRNAY-sat)に寄生されたCMVがタバコに感染すると,タバコの葉は鮮やかな黄色に変化することが知られていました。

研究グループは,最初にこのY-satに寄生されたCMVに感染した葉の黄色がアブラムシを引き寄せていることを発見しました。さらに,その黄色くなったタバコの葉で吸汁したアブラムシの体は赤く変化し,数日で元々は無かった翅が形成されるメカニズムも解明しました。これらのメカニズムは,Y-satから作られる2本鎖RNAdsRNA)が,アブラムシの体内に入り,RNAサイレンシングという現象によって,翅形成に関わる遺伝子群の発現を直接に制御することがわかりました。

また,葉の黄化は必ずしも光合成を低下させないことや,Y-sat感染植物のウイルス量が低いにもかかわらず,CMVのアブラムシ伝搬には問題ないことも明らかにしました。Y-satは,RNAサイレンシングによって生成されるスモールRNAを介してアブラムシの生理機能を直接変化させ,翅の形成を促進していることがわかりました。つまり,Y-satはアブラムシを引き寄せて翅を生やし,遠くに拡散させる"乗り物"にしていたことが本研究により解明されました。

本研究の成果はウイルスやsatRNAの起源そして進化について,RNAサイレンシングが大きな決定因子であることを見出すことで,様々な分野の研究の進展への寄与が期待されます。

なお,研究成果は,2021126日(月)公開のNature Communications誌に掲載されました。

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Y-satに感染したタバコは鮮やかな黄色を呈する。その黄化した植物に,黄色を好むアブラムシは誘引される。アブラムシに吸汁されたY-satは,アブラムシの体色を赤くし,翅形成を促進する。