2022年2月4日
北海道大学
大阪大学
塩野義製薬株式会社
東京大学
ポイント
●東京2020オリンピック・パラリンピック選手村における感染状況把握のため下水疫学調査を実施。
●北大・塩野義の高感度検出技術により下水中ウイルスを定量し,ゲノム解析により変異株を検出。
●下水疫学調査が大規模集合イベントにおける感染リスク管理に資するツールとなることを実証。
概要
北海道大学大学院工学研究院の北島正章准教授,大阪大学感染症総合教育研究拠点の村上道夫特任教授(常勤),塩野義製薬株式会社の岩本 遼課長補佐,東京大学大学院工学系研究科の片山浩之教授及び同大学医科学研究所の井元清哉教授は,2021年に開催された第32回オリンピック競技大会(2020/東京)及び東京2020パラリンピック競技大会(以下,東京2020大会)の選手村に実装された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の下水疫学調査の概要を報告しました。
井元教授が代表を務め,北島准教授や村上特任教授(常勤)も参画する有志研究グループMARCO(MAss gathering Risk COntrol and COmmunication)は,大規模集合イベントにおけるCOVID-19をはじめとした感染症のリスク管理に関する研究と社会実装に取り組んでいます。その活動の一環として,片山教授や塩野義製薬などの協力のもと,東京2020大会の選手村においてCOVID-19の下水疫学調査を実施しました。
下水疫学調査は,不顕性感染者や軽症者も含めた集団レベルでのCOVID-19感染状況を効率よく把握するツールとして活用が期待されています。研究グループは,東京2020大会開催期間を含む2021年7月14日から9月8日にかけて,選手村より下水検体を採取し,北海道大学と塩野義製薬が共同開発した高感度検出技術を用いて,下水中の新型コロナウイルスRNAの検出調査を実施しました。その結果,陽性者の報告がないエリアも含めて,多くの下水検体から新型コロナウイルスRNAが定量検出され,陽性下水検体のゲノム解析により変異株も検出されました。
下水疫学調査は,次回以降のオリンピック・パラリンピックを含む大規模集合イベントにおける感染対策の一環として活用が期待されます。今回の調査結果は,空港での入国時の大量検査法として用いられる唾液抗原定量検査では多くの不顕性感染・ウイルス保有者が検知されない場合があること,及び下水疫学調査が空港検疫を補完する検査法となり得ることを示すものであると言えます。
なお,本報告は,2022年2月3日(木)公開のJournal of Travel Medicine誌(オンライン版・オープンアクセス)に査読付き速報論文として掲載されました。
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