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細胞などの要素間相互作用の関係性をデータ駆動的に解明~データ科学的に困難であった要素間の主従関係を同定する有力な手法として期待~(電子科学研究所 教授 小松崎民樹)

2022年2月10日

ポイント

●細胞などの要素間における多体の相互作用をデータ科学的に解明する手法を開発。
●データから因果関係を推論する従来の理論を一般化し,主従関係をより正しく評価することに成功。
●複雑な要素間における多体の相互作用を分析する有力なデータ駆動型手法として期待。

概要

北海道大学電子科学研究所の小松崎民樹教授の研究グループは,カリフォルニア大学デービス校のジェームズ クラッチフィールド教授らと共同で(人間,鳥,魚,細胞などの)要素間の多体の相互作用を,因果関係を推定する情報理論を改良することで,従来法に比して主従関係をより正しく評価できるとともに,2つの要素の軌跡データだけを用いて分析できることを見出しました。

ある細胞と別の細胞の主従関係を推定する場合,それら2つの細胞の軌跡データなどを用いて評価されてきました。つまり,主従関係を理解する際には,すべての細胞対の軌跡データを調べることになります。しかしながら,2つの細胞の振る舞いを決める因子が,その2つの細胞以外にも,第3の細胞が介在する状況なども考えられ,主従関係や因果関係における"原因"と"結果"を解析するためには,単純な対の組み合わせで表現できない多体の相互作用から成り立っています。そのため,多体のあいだの因果関係を推定することは要素間の組み合わせの数が膨大になり,データ科学における難問でした。そこで,研究グループは,情報理論において因果関係を推定する移動エントロピーと呼ばれる量を細分化した新しい情報量に着眼し,生物等の集団運動を模倣する数理モデルに基づいてこの問題を考察しました。さらに,移動エントロピーに含まれる相乗情報量の振る舞いを解析することで,要素間の多体の相互作用が推定できる可能性を示しました。

本研究成果により,従来の移動エントロピーよりも,背後の因果関係をより正しく評価が可能となり,系の振る舞いを評価する式自身が非自明な複雑な要素間の多体の相互作用を分析する有力なデータ駆動型手法として期待されています。

なお,本研究成果は2022年2月9日(水)公開のScience Advances誌に掲載されました。

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リーダー細胞(赤)を取り巻くフォロワー細胞(白)の多体の相互作用の概念図。手前のモデルは,隣接する近傍のフォロワー細胞は互いに影響を及ぼしあっているのに対し,奥のモデルでは,フォロワー細胞はお互いの影響が無視できるほど小さい。このような多体の相互作用の違いを二対の細胞の運動の軌跡データのみから識別する問題。