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恐怖記憶に関わるセロトニン受容体を特定~PTSD治療への貢献に期待~(医学研究院 講師 大村 優)

2022年2月14日

ポイント

●14種類存在するセロトニン受容体のうち,5-HT2C受容体が恐怖の記憶に関与することを特定。
●PTSD治療法の一つである曝露療法のやり方次第では,恐怖記憶が悪化する可能性を示唆。
●恐怖の記憶に苦しむPTSD患者のための治療法開発への進展に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院の大村 優講師らの研究グループは,セロトニン5-HT2C受容体が恐怖の記憶に関与することを明らかにしました。

近年の東日本大震災に代表されるような天災,戦争,虐待などの恐怖の記憶はヒトの脳に深く刻み込まれ,人々を長く苦しめます。しかし,恐怖の記憶に苦しむ心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者に対する治療薬や,曝露療法などの認知行動療法の効果はいまだ不十分です。恐怖の記憶には脳内のセロトニンが関与することがこれまで示されてきました。しかし,放出されたセロトニンを受け取る受信機の役割を果たす受容体は14種類もあります。今回の研究では,そのうちの一つであるセロトニン5-HT2C受容体に着目し,5-HT2C受容体を発現しない遺伝子改変マウス(5-HT2C受容体欠損マウス)を用いて実験を行いました。

通常,ある場所で恐怖体験をしたマウスは,その場所では怖がって甘い砂糖水をあまり飲まなくなります。ある音を聞いた後に恐怖体験をしたマウスも,その音を聞くと砂糖水を飲むのをやめます。しかし,5-HT2C受容体欠損マウスは,以前に恐怖体験をした場所であれ音であれ,あまり怖がらずに砂糖水を飲み続けました。しかし,その効果は場所や音情報の提示方法を変えると消えてしまいました。将来的にはこの研究がPTSDの治療薬・治療法開発につながることが期待されます。

なお,本研究成果は,2022211日(金)公開のTranslational Psychiatry誌にオンライン掲載されました。

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セロトニン5-HT2C受容体を持たないマウスは恐怖を感じていないかのように振舞う