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大気質改善の環境政策が関連呼吸器疾患を低減~タイの野焼き禁止による呼吸器疾患受診数の減少効果を定量的に証明~(医学研究院 教授 上田佳代)

2022年3月1日

ポイント

●分割時系列解析により,野焼き禁止前後での呼吸器疾患の受診数の変化を調査。
●野焼き禁止強化後,呼吸器疾患の受診数が10%近く低下。
●地球環境政策による住民健康改善効果に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院の上田佳代教授,同大学院医学院衛生学教室のアタッチャ アティーシャ博士研究員らの研究グループは,タイ北部における疫学研究で,野焼きを禁止する環境政策の実施が地域の大気質を改善しただけでなく,呼吸器疾患の受診数も減らしたことを定量的に示しました。

東南アジアでは,焼き畑や農業残渣(稲わら)の野焼き,森林火災が多発し,季節性の大気汚染の原因となっており,呼吸器疾患の増加との関連性が懸念されています。2013年には「野焼きゼロ」キャンペーンを実施しましたが,効果があまり見られなかったため,2016年から野焼き禁止が強化されました。

これまでの疫学研究は,大気汚染によりどれぐらいの健康影響が引き起こされるかは明らかにしてきましたが,大気質を改善するための環境政策の効果,すなわちどの程度健康被害を低減させたか,という点は検討されていませんでした。呼吸器疾患は大気汚染だけでなく,喫煙など他の要因にも影響されるので,呼吸器疾患が改善しても必ずしも大気汚染の低下の効果とは断言できないためです。

本研究では,分割時系列解析(interrupted time series analysis)という疑似実験の手法を用いて,野焼き禁止という介入の前後で呼吸器疾患による受診数がどう変化するかを検討しました。その結果,2016年の野焼き禁止強化前と比較して,PM10濃度,野焼き件数が劇的に減るのみならず,呼吸器疾患による受診も約10%低下することを示し,地域の環境政策が住民の健康を改善させることを明らかにしました。

なお,本研究成果は,202224日(金)公開のInternational Journal of Epidemiology誌に掲載されました。

論文名:Effect of a vegetation fire event ban on hospital visits for respiratory diseases in Upper Northern Thailand(タイ北部の呼吸器疾患受診数に対する野焼き禁止の影響)
URL:https://academic.oup.com/ije/advance-article/doi/10.1093/ije/dyac005/6522740

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野焼き規制後の各県のPM10濃度の変化