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氷の成長が描くミクロならせんパターンを発見~水中の氷の新たな結晶成長メカニズムを解明~(低温科学研究所 助教 村田憲一郎)

2022年3月2日

北海道大学
金沢大学

ポイント

●水-氷の成長界面で,氷結晶-分子段差の自己組織化現象を直接観察することに成功。
●自己組織化現象が引き起こす,らせんパターンを発見。
●氷を越えた普遍的な融液成長のメカニズムの解明と結晶成長制御への応用に期待。

概要

北海道大学低温科学研究所の村田憲一郎助教,金沢大学学術メディア創成センターの佐藤正英教授らの研究グループは,氷が水中で成長する際に,その界面で氷結晶の一分子段差が自発的に集合し,より高い段差を形成しながら成長することを発見しました。一般に,結晶の成長はその表面に分子・原子が層状に積み重なり,分子・原子スケールの段差を作りながら進行します。それに対し,成長中の氷の界面では,一分子段差の前進運動と氷の成長によって生じる潜熱の拡散が動的に絡み合う結果,一つ一つの一分子段差が特定の間隔で寄り集まって束になり,より高い段差を作ることが明らかになりました。このような段差(ステップ)の自己組織化現象は「ステップバンチング不安定化」として知られています。しかし融液成長と呼ばれる自身の融液からの結晶成長様式ではこれまで観察されていませんでした。本研究は,水から氷へという最も身近な融液成長においてステップバンチング不安定化が存在することを実験的に明示した初めての研究です。

さらに,この現象で生じたステップ列が多方向から衝突することで,定常的ならせんパターンを描き出すことも発見しました。このらせんパターンは渦巻成長といわれ,結晶の成長過程でしばしば見られるものです。しかし,結晶成長に伴うステップ列が自ら渦巻成長を誘起する今回の成長様式は極めてユニークであり,その過程を直接観察したのは本研究が初めてです。

本研究で得られた知見は,融液成長という最もシンプルな結晶成長様式の基礎的理解を深めると同時に,細胞・臓器等の冷凍保存で鍵を握る氷晶成長制御や,さらに広く半導体結晶を始めとする高品質・高機能の結晶性材料の開発・設計に向けた新たな指針となることが期待されます。

なお,本研究成果は,202231日(火)公開のProceedings of National Academy of Science, USA誌にオンライン掲載されました。

論文名:Step bunching instability of growing interfaces between ice and supercooled water(氷-水成長界面におけるステップバンチング不安定性)
URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2115955119

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氷結晶の成長中に水-氷界面に現れるらせんパターン(左)とその概略図(右)。