2022年4月22日
北海道大学
札幌医科大学
ポイント
●糖尿病で創傷が生じると,皮下脂肪で有害な老化細胞が出現することを解明。
●皮下脂肪で起こる細胞老化が,糖尿病性潰瘍の原因となる可能性を明らかに。
●老化細胞を標的とした新しい糖尿病性潰瘍治療の発展に繋がることが期待。
概要
北海道大学大学院保健科学研究院の千見寺貴子教授,札幌医科大学医学部解剖学第2講座の齋藤悠城講師及び札幌医科大学大学院医学研究科博士課程の北愛里紗氏らの研究グループは糖尿病の皮下脂肪でおこる細胞老化が難治性の創傷を引き起こす可能性を新たに見出しました。
糖尿病患者に創傷が生じると,治りにくい傷(難治性創傷)となって感染や壊死を生じ,最悪の場合は下肢の切断にいたることが知られています。しかし,なぜ糖尿病では傷が治りにくいのか,その病態メカニズムは十分に明らかにされていません。
研究グループは,糖尿病モデルマウスと正常マウスに創傷を作り,創傷が治るプロセスをそれぞれ解析しました。すると,正常マウスの皮下脂肪では,傷ができると速やかに老化細胞が出現し,修復が進むにつれて老化細胞が消失しましたが,糖尿病モデルマウスでは異なるタイプの老化細胞が出現し,老化細胞が消失せず存在し続けることがわかりました。この細胞老化の現象は糖尿病患者検体を解析した結果でも同様でした。次に,糖尿病モデルマウスと正常マウスの細胞老化の違いを検討するため,細胞老化随伴分泌形質(SASP)という現象に着目して解析を行いました。正常マウスの皮下脂肪でおこる老化細胞は,SASPによって傷の修復を促進する一方で,糖尿病モデルマウスのSASPでは傷の修復を阻害することが明らかになりました。
本研究成果は,糖尿病の皮下脂肪における有害な老化細胞が,傷の修復を阻害することを明らかにしました。今後,より詳細な老化細胞の特性の解析を続けることで,老化細胞を標的とした新しい糖尿病性潰瘍治療の発展に繋がることが期待されます。
なお,本研究成果は,2022年4月5日(火)公開のCommunications Biology誌にオンライン掲載されました。
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本研究の概要図。創傷治癒過程の皮下脂肪組織に有益な老化細胞と有害な老化細胞を同定し,糖尿病における創傷治癒治癒の遅延メカニズムを解明